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「あーっ、ラルド、ラルド、……なんだ、こんなとこにいたんだ!」
大学のキャンパス内で、緑の多い芝生の公園を背に備え付けられているベンチに物憂げに座っているラルドを、教会娘のミールが見つけた。
「もぉ、ここにいたのね!……私てっきり、ラルド学校辞めちゃうのかって思った!全然見かけないから。……でも全然変わってなかったんだ。落ち込むと、君はいつもここに来る癖がある」
ラルドは軽く顔を上げる。
「ミール……」
ラルドはうつろな目をして、それでも必死に笑みを浮かべてミールに笑いかけた。ミールはその様子を見て、正直胸がつぶれそうだった。
ミールは深く息を吸う。やはり話題はそのことしかなかった。
「弟さん、残念ね。……亡くなってから、どれくらい経つの?」
「半年、……弱かな?」
「あなたにとって、……それは長いの?短いの?」
ラルドは急に泣き出しそうな顔に変わった。
「ねえ、ミール、あなたが私を励まそうとしてくれてることは分かるわ。……でも、今は一人にして欲しいの。私、笑顔で応える自信ないから」
ラルドはそう言うとおもむろに立ち上がった。
ミールはすかさずラルドの手を掴んだ。
「待って……。あなたが動く必要ないわ。……ここに来ると落ち着くんでしょ?」
「…………」
腰を下ろしたラルドは、深くため息をつくと、またじっとうつむいた。
ミールも、深くため息をつく。そしてそのあと、彼女はラルドの背中にそっと手を当てた。
「こんな話があるわ。私がね、……教会の仕事をするようになって……、いろんな立場から宗教に接するようになった話。……そう宗教は、人を洗脳もできるし、地獄の淵から救うこともできる。」
「……」
「教会はね、一ヶ月に一度、病院のお見舞いに行くのよ。……それで、私がいっつも思い出すのは、あの患者さん。私たちがお見舞いに行った次の日に、両足を切断する手術を受ける人だったの。……教会のみんなは、彼の前に集まった。……それで、神のご加護があるように、神の慈愛を求めて、私たちは賛美歌を歌ったのよね。」
ミールは話を止めた。ラルドが顔を上げたからだった。
「……愛はさ、……ねえ、ミール。愛ってさ、セックスとかと切り離す事ってできないの?」
「えっ?……私は、…………そうね、私に問うなら『NO』と応える方が良いのかしら?だって、私、シスターよ?」
ミールはにっこり笑って自分を指さした。
「そう…………」
「貴方が弟さんに抱く愛情は、確かに私も普通じゃないって思う。」
「……」
ラルドは再びうつむいた。
「いとおしくなっちゃって。……すごく。……異常なくらい。……あと数日で、消える存在だと思うと、……とっても……」
「それはたぶん、病気じゃないときのロアンも、無意識のうちにすっごく好きだったってことなんじゃないの?」
「だって……私たち、姉弟よ?」
「一番、近くにいる存在だもの……」
ミールは、ラルドにじんわりと滲み出てくる涙を見た。
「でも、私良かったと思う。……あの子、あの子は、死ぬのを一番怖がってた。」
「そう……」
「彼は、手術台で死んだ。深夜に急に体調が悪くなって、それで手術台で死んだ。……苦しまなかったと思う。それがよかった。」
ラルドは崩れるようにミールのおなかに顔を埋めた。ミールは優しく手を置いた。
「ええ……そうね……」
大学のキャンパス内で、緑の多い芝生の公園を背に備え付けられているベンチに物憂げに座っているラルドを、教会娘のミールが見つけた。
「もぉ、ここにいたのね!……私てっきり、ラルド学校辞めちゃうのかって思った!全然見かけないから。……でも全然変わってなかったんだ。落ち込むと、君はいつもここに来る癖がある」
ラルドは軽く顔を上げる。
「ミール……」
ラルドはうつろな目をして、それでも必死に笑みを浮かべてミールに笑いかけた。ミールはその様子を見て、正直胸がつぶれそうだった。
ミールは深く息を吸う。やはり話題はそのことしかなかった。
「弟さん、残念ね。……亡くなってから、どれくらい経つの?」
「半年、……弱かな?」
「あなたにとって、……それは長いの?短いの?」
ラルドは急に泣き出しそうな顔に変わった。
「ねえ、ミール、あなたが私を励まそうとしてくれてることは分かるわ。……でも、今は一人にして欲しいの。私、笑顔で応える自信ないから」
ラルドはそう言うとおもむろに立ち上がった。
ミールはすかさずラルドの手を掴んだ。
「待って……。あなたが動く必要ないわ。……ここに来ると落ち着くんでしょ?」
「…………」
腰を下ろしたラルドは、深くため息をつくと、またじっとうつむいた。
ミールも、深くため息をつく。そしてそのあと、彼女はラルドの背中にそっと手を当てた。
「こんな話があるわ。私がね、……教会の仕事をするようになって……、いろんな立場から宗教に接するようになった話。……そう宗教は、人を洗脳もできるし、地獄の淵から救うこともできる。」
「……」
「教会はね、一ヶ月に一度、病院のお見舞いに行くのよ。……それで、私がいっつも思い出すのは、あの患者さん。私たちがお見舞いに行った次の日に、両足を切断する手術を受ける人だったの。……教会のみんなは、彼の前に集まった。……それで、神のご加護があるように、神の慈愛を求めて、私たちは賛美歌を歌ったのよね。」
ミールは話を止めた。ラルドが顔を上げたからだった。
「……愛はさ、……ねえ、ミール。愛ってさ、セックスとかと切り離す事ってできないの?」
「えっ?……私は、…………そうね、私に問うなら『NO』と応える方が良いのかしら?だって、私、シスターよ?」
ミールはにっこり笑って自分を指さした。
「そう…………」
「貴方が弟さんに抱く愛情は、確かに私も普通じゃないって思う。」
「……」
ラルドは再びうつむいた。
「いとおしくなっちゃって。……すごく。……異常なくらい。……あと数日で、消える存在だと思うと、……とっても……」
「それはたぶん、病気じゃないときのロアンも、無意識のうちにすっごく好きだったってことなんじゃないの?」
「だって……私たち、姉弟よ?」
「一番、近くにいる存在だもの……」
ミールは、ラルドにじんわりと滲み出てくる涙を見た。
「でも、私良かったと思う。……あの子、あの子は、死ぬのを一番怖がってた。」
「そう……」
「彼は、手術台で死んだ。深夜に急に体調が悪くなって、それで手術台で死んだ。……苦しまなかったと思う。それがよかった。」
ラルドは崩れるようにミールのおなかに顔を埋めた。ミールは優しく手を置いた。
「ええ……そうね……」
更新日:2012-07-13 19:30:35