臨床試験見直し:倫理委構成を法規制 厚労省検討会
毎日新聞 2014年11月26日 20時49分(最終更新 11月27日 01時07分)
降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の疑惑を受け、臨床試験に関する制度の見直しを議論していた厚生労働省の有識者検討会(座長・遠藤久夫学習院大教授)は26日、一定範囲の臨床試験に法規制が必要だとする報告書をまとめた。試験計画を審査する倫理委員会の構成要件を国が規定することなどを求めた。製薬企業が医療機関に渡す奨学寄付金などの資金の開示についても、国は法規制を視野に対応を検討すべきだとした。厚労省は法案作成に着手し、早期の国会提出を目指す。
現在、医薬品や医療機器の新規承認を目的として実施する「治験」は法規制されているが、それ以外の臨床試験に関するルールには指針があるだけで、罰則もない。報告書は、過度な規制で研究現場を萎縮させぬよう、法の網をかける臨床試験の範囲を、市販後の医薬品・医療機器の新たな効果・効能を確かめるものや、広告に用いられることが想定される研究などに限定した。これらは国際基準に従ってデータ保存などが必要になる。
研究者の金銭などの利益相反については、「適切に公表されることが重要」と指摘。現在は業界団体の自主努力に委ねている提供資金の開示についても法制化の検討を求めた。
研究不正については行政当局に情報の受付窓口を設置したり、調査権限を持たせたりして、監視を強めることを提言した。
さらにバルサルタン疑惑では、臨床試験の妥当性を審査する研究機関や病院の倫理委員会が「歯止め」にならなかったことも問題視された。報告書では倫理委が臨床試験の進め方や点検、副作用情報の把握ができるよう提言。全国に1300ある倫理委について、将来的には地域や専門領域に応じて「集約化」を図るべきだとした。【八田浩輔、河内敏康】
◇厚生労働省の検討会の報告書の骨子
▽一定範囲の臨床試験に法規制が必要
▽倫理審査委員会の構成要件を定め、質を確保
▽行政当局は不正事案への調査権限を確保すべきだ
▽製薬企業が提供する資金の開示のあり方について、法規制も視野に検討すべきだ
▽医薬品の広告に関する監視・指導体制の強化
◇解説 企業と医師、襟正せ
製薬企業が広告に使う臨床試験に法の網がかけられることになった。第三者によるデータの監視などが義務付けられるため、不正防止と信頼回復に向けて一歩前進したと言える。だが、もたれあいの関係が指摘されてきた製薬企業と医師たちが襟を正さなければ、不正の根は絶てない。