デルタ機の硫黄島緊急着陸にネットで「うらやましい」ツイート 実際は修羅場…
11月上旬の米デルタ航空機による硫黄島(いおうとう)=東京都小笠原村=への緊急着陸がネット上で「うらやましい」と話題になっている。
先の大戦で激戦地となった硫黄島へは戦没者慰霊のためのチャーター便が年数便出ているだけで、観光地のように自由に往来できないからだ。一方、米グアムに向かう途中で緊急着陸に遭遇した搭乗者は機内に約6時間も缶詰めになり、楽しいはずの観光旅行が暗転した形だ。デルタ航空ではその後も別の航空機が北海道の空港に緊急着陸しており、国土交通省も今後の対応などを注視している。
■緊急着陸トラブルがネット上では羨望のまなざし
「硫黄島!行きたいぞ!いいな!」「一度は硫黄島に慰霊に行ってみたい。寄れるなんてうらやましい」
関西空港発米グアム行きのデルタ航空294便ボーイング757−200(乗客163人)が11月9日、運航中のエンジントラブルで海上自衛隊が管理する硫黄島飛行場に緊急着陸した−とのニュースが流れると、ネット上には緊急着陸先の硫黄島に注目したツイートがあふれた。
70年前の大戦で激戦地となった硫黄島は、東京とサイパン島のほぼ中間に位置する戦略上の重要拠点として知られる。昭和20年2月から3月にかけ、短期決戦を目指す米軍に対し、日本軍は陸海軍計2万1200人の将兵が、栗林忠道陸軍中将の指揮の下、全長約18キロに及ぶ地下壕を構築して持久戦を展開。3月26日に栗林中将が総攻撃を行うまで、36日間にわたって抵抗を続けた。この結果、日本軍は約2万1千人、米軍は約2万8千人に及ぶ死傷者を出した。
日本航空によると、硫黄島へは現在、関係者による戦没者慰霊事業用として年数本のチャーター便を飛ばしているだけで、一般の乗り入れは限定されているのが現状だ。
■6時間缶詰めの後、代替機へ 常夏の島グアムでは疲労困憊…
ネット上で硫黄島への緊急着陸をうらやむツイートが相次ぐ一方、実際の搭乗者は“修羅場”を経験したようだ。
9日午前10時10分ごろに関西空港を離陸したデルタ機は、硫黄島の南南東約450キロの太平洋上を飛行していた午後0時25分ごろ、左右に1基ずつあるエンジンのうち左エンジンにトラブルが起きたとの表示が出たため、機長が右エンジンだけで飛行を続け、約30分後に最寄りの硫黄島に緊急着陸した。
航空機は安全を確保したが、搭乗者がストレスを強いられたのはここからだった。すでに出国手続きを済ましていたほか、島内に163人の搭乗者が休息できる施設がなかったため、成田空港から代替機が到着するまでの約6時間、機内に缶詰め状態になったのである。
デルタ航空の広報担当者は「万全の態勢で対応したので、気分が悪くなるお客さまはいなかった」というが、食料や水などは限られ、抱えたストレスの大きさは想像に難くない。しかも、硫黄島は当日雨で、代替機への移動中にぬれた可能性も否めない。
搭乗者が代替機でグアムに到着したのは予定より約9時間遅れの午後11時半ごろ。同社広報担当者によると、グアムに到着した搭乗者はかなり疲れた様子だったという。
■自衛隊の全面協力も、別の航空機がまたも緊急着陸
一方、緊急着陸を受け入れた硫黄島飛行場を管理する海自側も協力態勢を敷いた。
年数回のチャーター機が乗り入れるとはいえ、緊急着陸は平成15年3月の別の米航空機以来11年ぶりとなるまれなケースだ。
海上幕僚監部広報室は「任務に支障のない範囲で協力した」とコメントしている。具体的には、搭乗者が機外に降りる際のタラップや、機内の荷物を代替機に入れ替えるためのフォークリフトなどを貸し出したという。
緊急着陸したデルタ機は今後、成田から貨物機で運び込んだ代替エンジンを付け替えて成田に戻る予定だが、エンジントラブルの原因はわかっていない。
そんな中、デルタ航空では、また別の航空機による緊急着陸が発生し、業界内で不安が広がっている。
11月14日午後5時25分ごろ、愛知県の中部空港に向かっていた米デトロイト発の629便エアバスA330が、北海道釧路市の南東約200キロの太平洋上を飛行中、左右に1基ずつあるエンジンのうち右エンジンの不具合を計器が示したため、機長が新千歳空港に目的地を変更、約50分後に緊急着陸した。乗客乗員126人にけがはなかった。
同社と国交省によると、右エンジン内でオイルの不純物を取り除くフィルターが詰まった可能性があるという。
デルタ機による相次ぐ緊急着陸について、国交省航空局の担当者は「2つのケースに関連性はみられず、その後の整備対応に問題はない」としているが、「今後新たな情報が出てくれば、デルタ航空を所管する米航空当局に連絡することもありうる」とし、同社の対応を注視していく意向を示した。
緊急着陸を繰り返す世界3位の航空大手から、しばらく目が離せそうにない。