折しもミズーリ州で白人警官による黒人少年射殺事件をめぐって騒動が起きているわけだが、ちょうどロースクールの講義でブラウン事件についての話やる日に大陪審の決定が出て、警官不起訴→暴動再燃となった。twitterでこのコトについて触れたところ、驚くほど一連のtweetsがRTされたりふぁぼられてたりしたんで、来年以降の講義でも、これに関することは触れるから、視覚資料置き場も兼ね、以下、少し整理した上でtweetsの再掲プラスアルファ。なお、今般のミズーリ州セントルイスでの暴動のこれまでの経緯については、とりあえず以下を参照。
●アメリカ・ミズーリ州黒人青年射殺事件 拡大する暴動とこれまでの経緯
http://matome.naver.jp/odai/2140849272340847901
今回の射殺された黒人少年は、マイケル・ブラウンという名前なんだけど、奇しくも、今を遡ること60年近く前の公民権運動の金字塔たる「ブラウン事件」の原告と同じ名前。
ブラウン事件については、毎年、講義の中でアメリカにおける社会的イシューが司法回路にアピールする傾向が日本とは比べものにならないくらい強い(激しい)という文脈で、「公共訴訟」の典型例として紹介するんだけど、この点については講義中に言及する通り、以下の文献を参照されたい。コレ名著。
大沢先生の本では、『アメリカの政治と憲法』(芦書房、1994年)も面白い。共和主義的憲法理論(解釈)について触れた日本語の本の嚆矢じゃないかな。
本論に入る前に言っとくけど、とにかく黙って以下の本を読まれたし。コレもホントに名著だから。話はそれからだ。
黒人差別とアメリカ公民権運動―名もなき人々の戦いの記録 (集英社新書)
- 作者: ジェームス・M.バーダマン,James M. Vardaman,水谷八也
- 出版社/メーカー: 集英社
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講義ではNAACP(全米黒人地位向上協会)がリンチ禁止立法を諦めて法廷闘争のためにLDF(Legal Defense Fund)を作ったって話をさらっとしてるけど、リンチとかどんだけアレだったか、これ読めば分かる。酷い話ですよ・・・。以前、講義中にこれを薦めたところ、読んだ学生がやって来て「新書を読んで初めて泣きました」とか言ってたくらい。リトルロック事件の話とか後日譚も含め感動的。そういうコトの積み重ねの上で、今回、現在進行形の暴動なわけ。
全然知らない人のために簡単に説明しとくと、アメリカは1954年にブラウン判決というのが出されるまでは、人種隔離政策(segregation)をやっていた。そんな中、このブラウンちゃん(当時8歳、下写真)が原告になって、人種別学制度は違憲だ!という裁判起こし、結果として連邦最高裁は彼女の主張を支持したわけ。
結果、人種統合教育が行われるようになり、これまで白人しか行けなかった学校に黒人の生徒が通うというような事態が生じることになった。
そんな中、判決から3年後の57年に起こったのが、リトルロック事件。アーカンソー州リトルロックにあるセントラル・ハイスクールに、これまで白人オンリーの学校だったところ、ブラウン判決(人種統合教育しろや)を承け、黒人生徒が登校しようとしたら、当時の州知事があからさまな人種差別主義者で、州兵まで出して登校を妨害し、連邦政府を巻き込んだ大騒動になった。
その時に撮影されたアメリカ史上最も有名な写真のひとつが、コレ。Little Rock Nine とかで検索すると出て来る。人種別学を撤廃したアーカンソー州リトルロックの高校へ登校しようとする黒人学生への嫌がらせをしている場面。
サングラスをかけた中央の黒人女性がリトルロックナインの1人であるエリザベス・エックフォードで、彼女の左肩後ろで憎悪に満ちた表情で罵声を浴びせている白人女性がヘイゼル・ブライアン。
ブライアンは、この写真のお蔭で長らく人種差別的憎悪のアイコンになってしまい、その後、けっこう苦しんだらしいのだが、実にこの40年後、エックフォードと涙して和解したらしい。下の写真は40年後の2人。
話を戻すと、下は連邦第101空挺師団(airborne)に守られながら登校する黒人生徒たち。さっき言ったように州知事が人種差別主義者で州兵出して黒人学生の登校を邪魔したから、アイゼンハワー大統領がブチ切れて連邦軍送っちゃったんだよね。
人種隔離政策を撤廃へと導いた金字塔がブラウン事件だったワケだけど、社会全体を覆う《意味秩序》を、こういう風に、或る日を境に一変させるような企てってのは、そう簡単に行くものでもなく、その結果、今回のミズーリ州の暴動に至るわけ。
日本における違憲判決が、この60年近くで、法令違憲9件、適用違憲12件の計21件なのに比べるとアメリカの違憲審査制の活発さと言ったらアレなんだけど、そうせざるを得ない程の社会的断絶が巨大な規模で発生するので、それに対応せざるを得ないという面もあるのではないか、と(エアリプで、アメリカの地方政府とか企業のアレさ加減も、社会運動の強烈さの原因というのを見たが、それも大いにあると思う)。
講義でも良く言うように、アメリカってのは、憲法に内在する公共的価値を、そういう大規模で深刻な不正義の状況が現出するたびに、法廷で争い、《再現前》させる、「公共性の劇場」を、劇団四季のキャッツみたいに、ずーーーっと連続公演でまわしてる国ってコト(日本は何だろうね。文楽とか?)。
まあ、そうであるからして、日本の最高裁は違憲判決なかなか出さなくてチキンだ!みたいな話は、いやいやブラウン事件とその(一種悲惨な)帰結みたいなのを見る限りでは、どっちがイイのかねえ、と思わされるのであった。
昔、アメリカに行ってた友達がくれたお土産で、Constitutional Law for a Changing America っていう巨大な本(897頁・・・もはや凶器)があるんだけど、コレとか読むとアメリカの著名な憲法判例とかに関する社会的・政治的背景が詳しく分かって面白い。余りにも巨大なんで暇のある時におもしろ半分に読んでて通しで読んだことは無いが、日本でも、こういう本が出るとイイのにと思う。
日本語で書かれた日本の司法に関するもので、これに類するのは、以下。これはホントに面白いので、コレも黙って読まれたし。話はそれからだ。全逓東京中郵事件とか、何でああいう判決になったのとか、良く分かる。
最高裁物語〈上〉秘密主義と謀略の時代 (講談社プラスアルファ文庫)
- 作者: 山本祐司
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以下は、おまけ。
白水社からの近刊で、デイヴィッド・レムニック著『懸け橋(ブリッジ)--オバマとブラック・ポリティクス』 もある。大著だけど、オバマとの絡みでブラックポリティックスについて書かれたもの(上下巻)。
このサイトも中々イイ。公民権運動史跡めぐり、みたいな。http://www2.netdoor.com/~takano/civil_rights/civil_06.html …
ゾンビ小説読んでると、ゾンビの人権を守れ!という人権団体が登場するのがあるんだけど、そこにも「我々は公民権運動の長い隊列の末尾に連なっているのであり・・・」みたいな記述が出て来たりするんだよね。S.G.ブラウンの『ぼくのゾンビライフ』っていうやつだけど。こいつもブラウンか・・・汗
- 作者: S・G・ブラウン,小林真里
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ま、こんな感じで。