(2014年11月26日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
主要な高所得国――米国、ユーロ圏、日本および英国――は「慢性的需要欠乏症候群」に苦しんでいる。より正確に言うならば、これらの国々は、民間部門がお金を使わないために超緩和的な金融政策か多額の財政赤字、あるいはその両方の刺激策がなければ国内総生産(GDP)を潜在GDPに近づけられないという状況にある。
日本は1990年代前半から需要欠乏症候群を患っており、ほかの国々も遅くとも2008年にはこの病にかかっている。では、どのような対策を講じればよいのか。その答えを探るには、これがどんな病気なのかをまず把握しなければならない。
危機は金融システムの心停止、医師の仕事は患者を死なせないこと
例えて言うなら、危機は金融システムの心停止であり、経済に破壊的な打撃を及ぼす恐れを秘めている。経済の医師の任務は患者を生存させること。すなわち、金融システムの崩壊を阻止し、需要を維持することである。
目の前で心臓発作を起こしているのだから、患者のライフスタイルを気にしている場合ではない。とにかく死なないようにしなければならない。
心臓発作と同様に、金融危機の影響は長期にわたる。それは金融セクター自体が打撃を被るためでもあり、人々が将来に対し不安を抱くからでもあるが、危機が発生するまでの過程で積み上がった債務がついに耐えきれないものになってしまうからでもある。
そこで始まるのが「バランスシート不況」、つまり債務者が債務返済を最優先する時期だ。
金融危機発生後の政策は、そのような民間部門のデレバレッジ(債務削減)による穴を埋めるか、デレバレッジを促進するものでなければならない。緩和的な金融・財政政策はその両方に寄与することができる。また、そうした政策が打たれなければ、危機に見舞われたユーロ圏諸国で見られたように、大変な景気不振が生じる公算が大きい。
過剰債務よりも厄介な問題
デレバレッジを補強するものの1つに債務再編がある。多くのエコノミストは債務再編を問題解決に必須の要素と見なし、推奨してきた。少なくとも家計部門の債務再編については、米国はユーロ圏よりもはるかにうまくやってきた。
しかし、債務者が負けを認めない限り、債務再編を進めることは極めて難しい。民間部門においてはその通りだし、公的部門ではなおさらだ。過剰な債務がなかなか解消されずにいるのはこのためでもある。