Updated: Tokyo  2014/11/27 03:08  |  New York  2014/11/26 13:08  |  London  2014/11/26 18:08
 

食べログ:書き込みでレストラン業界揺さぶる-透明性か信頼か

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  11月26日(ブルームバーグ):日本最大のレストラン評価サイト、食べログは日本の飲食店業界に一石を投じた。消費者目線の書き込みでメニューが変わり、店舗の死活問題になることさえある。

カカクコム傘下の食べログサイトには全国約80万店に関する590万件以上の口コミが書き込まれている。食べログは日本の外食シーンに前例のない透明性を持ち込んだ。同時にシェフやレストランオーナーらの批判の的にもなり、投稿がフェアでない、情報が不正確、さらには日本の食文化を損なうといった声が寄せられているという。

東京都文京区でコーヒー店、エスプレッソファクトリーを営む鳴海裕店長は「無責任な投稿は便所の落書きと同じようなもの」と述べた。同氏は、食べログは「影響力に対する責任を取っていない」と話す。

これについてカカクコムの田中実社長は、一部のレストランオーナーにすれば利用客から直接寄せられるフィードバックはインターネット時代以前になかったもので、慣れていないのだとインタビューで述べた。「ユーザーの声を聞かざるを得ない状況が初めて生じており、それに非常に困惑しているのだと思う」と話した。

食べログは、こうした批判にもかかわらず好業績を維持し、カカクコム の一番の成長エンジンとなっている。7-9月期の食べログの売上高は前年同期比79%増の31億円と過去最高を記録した。カカクコム全体の売り上げが26%増だったことと比べると、その成長力の大きさが際立っている。カカクコムの株価は昨年2倍強上昇したが、今年これまでは3.6%下落している。

成長エンジン

田中社長は銀行勤務を経て2002年にカカクコム取締役就任。06年に社長に就任してからこれまでに同社時価総額を7倍の3831億円まで増大させた。

食べログの成長の原動力となっているのがレストラン向けの有料サービスだ。クレディ・スイス証券の中安祐貴アナリストによれば食べログの売上高のほぼ70%を占めているという。

9月現在、食べログの店舗向けサービスの有料会員となっているレストランは3万7000店で、1年前の2倍近くに増えているという。このサービスは月額2万5000円からで、標準検索における露出アップや、店舗紹介ページの一部を自由に編集することもできるようになる。

イェルプからの買収提案

食べログが台頭したことで、年間23兆9000億円という日本の外食市場を舞台に追撃するライバルも増えつつある。4月には米国で同様のサービスを提供しているイェルプ が東京と大阪に的を絞った日本語サイトを開設し、日本市場に乗り込んできた。田中社長によれば、イェルプは昨年、食べログへの買収提案が不調に終わった後で独自に日本事業を始めたという。イェルプの広報担当、クリステン・タイタス氏はコメントを避けた。

食べログの国内ライバル、ぐるなびはこのほど、米トリップアドバイザーと業務提携することで基本合意した。相互にウェブサイトをリンクすることにより、トリップアドバイザーの利用者が米国から予約することが可能になった。ぐるなびは国内約58万5000店の情報を掲載している。

また、東京のベンチャーが運営する、Rettyは食べログと違って、レストラン評価を書きこむ人には身元を明示することを義務付けており、責任ある書き込みを売りに会員数を伸ばしている。10月末時点で月間利用者数が400万人を超え、前年比で5倍になっている。

個性より万人受け

しかし、一部オーナーからはユーザー主導の食べログの書き込みは必ずしも良いことではないといった声も聞かれる。中藤桃子さんは両親が東京・表参道で経営するダイニングバー「MOMO(モモ)」を手伝っている。当初は食べログのそうしたサービスを受け入れて会員になったが、良いことよりもダメージになることが多いとだんだん感じるようになったという。

MOMOはオムライスを看板料理に20年以上営業を続けているが、食べログに登場してからは新規顧客が増えた半面、常連の客足が遠のいたという。中藤さんは、食べログを見て来る客のおよそ80%は常連になってくれないため、店の個性を強めたメニューよりは幅広く万人受けするものに力を入れるようになると話した。

また、いつも監視されているようで、悪い評判を書かれるのではないかという不安が店員をぴりぴりさせたと中藤さんは言う。

インターネットや食べログが登場するまでは、レストラン経営はもっと楽しいものだったと中藤さんは振り返る。悪い書き込みに対する恐怖心から完璧なサービスを提供しなければならないという日本人的メンタリティーに陥ったり、非現実的な期待につながったり、ストレスや腹を立てたりする結果になると話す。

書き込みへの恐怖

ある時、MOMOについて古い情報が掲載されていて、それを食べログに削除してもらうのに中藤さんは数週間がかりで写真やビデオを盛り込んだパワーポイント資料を作って示す必要があったという。

9月に豊島区内の店を閉めた3代目の料理長、鈴木貴絵さんは、閉店に至った最大の理由として食べログの問題を挙げた。鈴木さんの店では新潟の郷土料理を旬の食材で提供していた。季節によって提供するメニューは変わるが、サイトに載っていた品を欲しいという注文に応えられず、食べログユーザーを怒らせてしまったという。

料理長の創造性が書き込みによって損なわれてしまうと鈴木さんは話した。「画一化されたような変な料理ばかりが出てきて、何も残らなくなってしまう」と危惧する。

三ツ星レストラン

食べログは三ツ星レストランに関しても書き込みの場を提供している。今年オバマ米大統領が訪日した際に安倍首相とともに訪れた東京・銀座の寿司店、すきやばし次郎。店主の小野二郎氏は完璧を追求することで知られているが、3万円の寿司を食べ終わるのに20分も掛からなかった、ある人は12分だったといった不満が書き込まれている。

すきやばし次郎の広報担当は、寿司はもともとファストフード。お客様の食べるスピードに合わせて提供しているが、希望に合わせてゆっくり出すこともできると話した。

また、とりたてて印象に残らずといった書き込みも見られるフレンチの三ツ星、ジョエル・ロブションの運営会社フォー・シーズの広報担当は、「個々の書き込みに対してコメントしない」と述べた。

批判的な書き込みの削除を求めて訴えた札幌のレストランのケースは原告側の敗訴となった。裁判所は、一般の人を対象にしている飲食店が、一般人からの書き込みを削除したりコントロールする権利はなく、食べログはそのプラットフォームを提供しているにすぎないとの判断を示した。また、古い情報を掲載されたとして、削除を求めて裁判所に訴えた佐賀県の居酒屋オーナーもいた。同オーナーは後に和解している。

訴訟

大阪で会員制クラブを経営する会社が今年提訴した事例は、食べログに情報が出たことでクラブの秘密性が損なわれたというもの。情報削除を求めたものの拒否されたとし、係争中だ。

田中社長は係争中の案件へのコメントを避けた。書き込みに関しては、毎日レストラン側やユーザー側から寄せられる3000-4000件の問い合わせを一件一件社内規定に照らして削除するか残すか、修正を求めるか検討していると語った。

食べログとしては正確性に努めており、レストラン側から正当な訴えがあれば情報を削除するし、実際に過去に削除したこともあったと、田中社長は話す。ただ、批判的な書き込みを削除することはサイトの中立性に反するし、匿名に関しては正直な意見を促すために必要だとの考えを示した。

田中社長は「ビジネス側とコンシューマー側の間にある人間としてバランスを取らないといけない」とした上で、「カカクコムや食べログがこれだけ多くの人に見られているのは、そこのランキングで信頼性が担保されているからだ」と語った。

食べログは拡張の手を緩めることはない。同社の資料によると、オンライン予約システムを13年1月に導入して以降8300店が利用しており、10月20日までの累計予約人数は100万人に達したという。

「不満はあってもこれだけ予約が入るんだから仕方ないと思ってもらえるところまで引っ張り上げないといけない」と田中社長は話した。

記事についての記者への問い合わせ先:東京 Yuji Nakamura ynakamura56@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:大久保義人 yokubo1@bloomberg.net 中川寛之, 浅井秀樹

更新日時: 2014/11/26 18:05 JST

 
 
 
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