くらし☆解説 「消費増税延期 社会保障はどうなる?」2014年11月26日 (水) 

藤野 優子  解説委員

安倍総理大臣は消費税率の10%への引き上げを1年半先送りする考えを示しましたが、これを受けて、予定されていた社会保障の見直しにどんな影響が出るのか。藤野解説委員に聞きます。
 
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Q 消費税率の引き上げが延期されて、(物価も上がっていたので)ほっとした方も多いと思うが、気になるのは社会保障。大きな影響が出るのか。

A 影響は出てきそう。消費税率の引き上げを見込んで、社会保障のいろんな充実策が予定されていたが、8%のままとすれば、10%に上げて全ての社会保障の充実策を実施する場合と比べると、1兆4500億円の財源が足りなくなる。
このため、社会保障と税の一体改革に盛り込まれていた年金、介護、子育て支援などの充実策の中でも優先的に取り組まなくてはならない課題に支障が出てくる可能性がある。
 
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Q 具体的に、どんなところに影響が出てくる可能性があるのか?

A まずは年金。
ひとつは、受け取る年金が少なくて、低所得になっている高齢者への給付金。
これは、保険料を納めた期間に応じて、ひと月最大で5000円の給付金を支給するもの。
来年10月からおよそ500万人の高齢者と、障害のある人たちにも支給される予定だったが、そのためには必要な財源が5600億円かかる。この財源をどう確保するのかという問題が出ている。
 
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Q 500万人を超える人たちに影響がでてしまうと大変ですね・・・

A そう。それに、これは、来年4月から始まる予定の新たな年金抑制策(20 ~30年にわたって年金の価値を2~3割下げていくもの)が始まると、低所得の高齢者がますます増えてしまうので早く救済を、ということで作られた制度だけに、影響が出てしまうと大変。

ふたつめは、年金の受給資格期間の短縮、つまり、年金が受け取れる最低加入期間の短縮。
いまの年金制度は、保険料を納めた期間(免除されていた期間も含む)が25年以上ないと年金を受け取れない。
 
Q 10年、20年納めた人でも?

Aそう、言ってみれば、払い損になっていた。

これを、来年10月からは、10年以上保険料を納めた期間(免除期間も含む)がある人は、額は少ないが年金が受け取れることになっていた。
実現すれば、無年金になっている人の4割にあたる17万人の人たちが、新たに年金を受け取れることになるが、必要な財源はおよそ400億円。この財源を確保できるめどは立っていない。
 
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次に、介護。
まず、65歳以上で低所得の人たちの介護保険料の軽減策。住民税非課税の世帯など、65歳以上の全体の3割の人たちの保険料が、来年4月から安くなる予定だったのだが、これには1300億円が必要。これもどうするのか。
それから、介護現場で働く人たちの待遇改善にあてることになっていた財源。これにも、消費税率を10%に上げた際の増収分を充てる予定だった。
団塊の世代が75歳以上になる2025年には、介護現場でさらに100万人の人材が必要と言われているが、遅れが出ないか心配されている。
 
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Q 消費増税で子育て支援を充実させると政府は強調していたが、子育ての分野は大丈夫なのか。

A ここは、女性の活躍を政権の看板政策に掲げているだけに、政府も優先的に予算を配分すると説明している。というのも、来年4月から新しい子育て支援制度が始まるから。これは、保育施設や学童クラブ、一時保育など総合的に地域の子育て支援を拡げていくもの。これは、予定通り実施するとしている。もうすでに、各自治体では、来年4月からの入園申し込みが始まっているので、ここに影響が出ると混乱をきたすという判断があった。
ただ、介護と同様に、今、保育の現場も深刻な保育士不足。このため、保育士の給与を上げたり、働く環境を改善したりするための財源も含めて、あわせて7000億円を使うことになっていた。これが十分に確保できるのかという問題が出ている。
 
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Q 私の家の近くでも、施設は出来ているのに、保育士がいなくてオープンできないままの保育園があるが、保育士が増えないと施設だけ増えても意味がないのでは?

A その通りだと思う。政府は、2017年度までに待機児童を解消することを目標にしているが、保育士の待遇改善と施設の整備をセットで進めないと目標の実現は難しくなるし、新しい子育て支援制度もうまく機能しない。ここは、何としても財源が必要になる。

Q いろんな対策に影響が出る可能性があるということだが、消費税率は8%にあがったわけですよね?そもそも、3%分はこれから何に使われるのか?

A それは、こちらを見てほしい。
 
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これは、消費増税による税収の増加分が、何に使われることになっているかを示したもの。青い部分のおよそ3兆円は基礎年金の財源に使われることになっている。
 
Q でも、年金だって増えたわけではないですよね?

A そう。どういうことかと言うと、基礎年金の財源の半分は税金で賄われているが、この財源はこれまで借金で賄われてきた。このため、まず、年金の借金を穴埋めしようということになった。
そして、この緑の部分も、これまで借金で賄われてきた、医療などの社会保障費の穴埋め。
 
Q 大半は借金返しだったということですか。

A そう。それで、社会保障の充実にあてられるのは、赤色の部分だけ。
これが、消費増率が10%に上がれば、最終的には、赤色の部分が2兆8000億円に増えるが、実は、社会保障の充実策の主なものは、10%への引き上げに合わせて実施されるものが多かった。言ってみれば、充実策は「後回し」のような形になっていた。
 
Q 借金を減らすことは大切だと思うが、3%分の負担も重いのに、その効果があまり感じられないというのは、少々納得できない方も多いと思うが。

A そう感じる方も多いと思う。先程見てきた低所得者への支援や子育て支援の内容はどれも、社会保障の中でも最優先で取り組まなくてはならない課題。
お金に色がついているわけではない。消費増税に合わせて予定されていた社会保障の充実策の中だけで、優先順位をつけるのではなくて、歳出全体の中で、政策の優先順位をつけて、実現に向けて予算を確保する努力をする必要があると思う。