「寄生獣」実写化の舞台裏 監督語る11月26日 15時24分
大ヒット映画「ALWAYS 三丁目の夕日」「永遠の0」などを手がける日本映画のヒットメーカー、映画監督の山崎貴さん。
最新作は、人間に寄生する謎の生命体と人類の戦いを描いた作品「寄生獣」です。
大ヒット漫画を原作としたこの作品、特殊なキャラクターが登場するため、長い間、実写による映画化は難しいとされてきました。
この映画の撮影秘話とその思いを山崎監督に聞きました。
天敵が現れた時の人間とは
「人間の数が半分になったら、いくつの森が焼かれずに済むだろうか」。
映画の原作となった漫画「寄生獣」はこんな問いかけから始まります。
物語は、謎の生命体が人間の脳に寄生して、その人を乗っ取り、ほかの人間を食べるというものです。
しかし、高校生の新一に寄生しようとした生命体は、乗っ取りに失敗して新一の右手だけに寄生します。
「ミギー」と名付けられた生命体は、やがて、新一と協力しながら、生命体に乗っ取られたほかの人間との戦いを始めます。
物語は、寄生獣の存在を通じて“人間とは何か?”という問いを読む人に投げかけます。
「寄生獣」は25年ほど前に雑誌に連載され、1000万部を超すヒットを記録しました。
この漫画の魅力について、山崎貴監督は「人間は、自分たちが食物連鎖の頂点に立っていると思っていますが、そこに天敵が現れたら、いったいどうなってしまうのかということを、この漫画は深く追求しています。昔から恋い焦がれてた原作で、映画にしたかった」と語りました。
68台のカメラで俳優の動き追う
謎の生命体という特殊なキャラクターが登場するこの漫画は、長い間、実写による映画化は難しいと言われてきました。
今回、実写化を可能にしたのは、山崎監督が長年、培ってきた特撮技術です。
特にこだわったのは、主人公の新一の右手に宿る生命体「ミギー」の生き生きとした表現でした。
ミギーは、俳優の阿部サダオさんが、声だけでなく動きも演じました。
68台のカメラで阿部さんの動きを、体のあらゆる場所につけた目印で捕捉し、微妙な体の動きや顔の表情まで、CGに反映させました。
顔の表情まで表現するのは日本の実写映画では初めての試みです。
山崎監督も出来栄えには満足した様子で、「ミギーのかわいらしさや愛くるしい感じ、阿部さんの持ってるキャラクターとしての面白さが、きれいに移植できてるんじゃないかな」と語っていました。
また、生命体に寄生された人間を演じる俳優の東出昌大さんの頭が変形して人間を襲う場面では、東出さんに目印のついたマスクをかぶってもらい、体の動きを細かく検知して、CGでリアルに表現しました。
山崎監督は「『寄生獣』のバトルの面白さは、首から上で戦うところなんです。伸びたり縮んだりして、剣と剣がムチのように交差しながら戦う様子は、僕もすごく見たかった絵ですし、原作を読んでる人たちも『このスピードで戦ってたんだ』と新たに面白がってもらえるんじゃないでしょうか」と演出の意図を明かしました。
映画が問いかけることは
特撮と共に意識したのは、生命体に乗っ取られた人間の表情です。
俳優たちは、ふだんの笑顔は一切見せず、何を考えているのか分からない無機質な表情で演技を続けます。
「表情には現れないけど、中ではすごい何かがうごめいている、もしかしたら、人間には理解できないタイプの感情なのかもしれないということを俳優に伝えました。その演技はなかなか気持ち悪かったですよね。東出さんは、ふだんは優しい人やさわやかなイケメンを演じることが多いんですが、『気持ち悪い』と言うと喜ぶんですよ」と語りました。
映画を見る人に監督が考えてほしいこととは何なのか、山崎さんは次のように話してくれました。
「原作で最後に残るものは、『あれ?俺たちってそんな威張ってていいんだろうか』という思いなんです。この時代に1度考えてみてもいいテーマなのかなと思います。実写化するというのはすごく困難な作業でしたけど、ある程度、やり切ったなと思っていますし、運命のようなものを感じますね」(山崎貴監督)。