(cache) 第12回 持ち味とメンタルヘルスからみた採用選考基準の再構築 - BackNumber | JMAM 日本能率協会マネジメントセンター

JMAM 日本能率協会マネジメントセンター

  • ENGLISH
  • お問い合せ・よくあるご質問
  • サイトマップ

第12回 持ち味とメンタルヘルスからみた採用選考基準の再構築



我慢強い(ストレス耐性の強い)若者が減っている

前田 明秀(株)日本能率協会マネジメントセンター
前田 明秀(Maeda Akihide)

 新入社員の採用が難しくなってきたといわれる。
 大量採用の時代と違って、現在はどこの会社も、高い採用基準を設け、それ相応のコストと時間をかけ、厳選した人材を採用している。それでもいざ彼らが就職してみると、採用した側の期待は大きく裏切られるというのだ。
 採用担当者の声をまとめてみると、おおむね次のようになる。

(1)面接や採用試験の結果はいいのに、実際に働いてみると期待通りに行動しない。
(2)高学歴でありながら、組織の中では通用しない。
(3)新卒で採用した新入社員のうち、約3分の1が3年以内に転職する。
(4)従来型の画一的な指導方法に適応できず、挫折していく若手社員が増加している。


 このような状況にあって、採用担当者の悩みは尽きることがない。1つには、「いまの時代は我慢強い若者が減少しているのではないか」という見方がある。ストレス耐性が全体的に低下しているという仮説だ。
「いまの若者は……」という言い方はいつの時代にも聞かれ、ある程度の年齢に達すると誰もが抱く印象だといわれてきた。ところが、ここに興味深いデータがある。若者のストレス耐性(メンタルヘルス)について過去40年の変遷を示したデータである。

【若者のメンタルヘルスの変遷】

V-CATのメンタルヘルスのレベルを4つ(メンタルヘルスの高い順にA,B,C,D)に分類し、昭和33年から平成13年までの受検者の出現率の推移をあらわしたものです。

若者のメンタルヘルスの変遷

 このグラフは「クレペリン精神作業検査」の1つであるV-CATの検査結果である。ここではメンタルヘルス(精神健康度)の高さによって受検者を4タイプに分類し、昭和33年から平成13年までそれぞれの出現率を追っている。

 昭和33年に6割以上を占めていたAグループは「適材随所型」と呼ばれ、最もメンタルヘルスの高いグループである。適材随所というのは、ストレス耐性が高いことから、あらゆる仕事、あらゆる職場に適応して働いていけることを意味している。

 昭和33年に2割強だったBグループは「適材適所型」と呼ばれる。一般に「適材適所」という言葉は、知識やスキルから判断した「適切な人員配置」の意味で使われるが、ここでは違った意味になる。Aグループの人たちがどの状況でも働いていけるのに対して、このBグループはより狭い範囲の仕事や職場でしか働けないことを示している。

 同様に、CグループはBグループより狭い範囲でしか働くことができない「適材局所型」、DグループはCグループよりも狭い範囲でしか働けない「適材極所型」となっている。

 この分類は、知識やスキルとは無関係であり、たとえば先端技術の仕事など極めて高い能力が求められる仕事はできても、他の仕事ではまったく通用しないという人材はいる。あくまでストレス耐性(メンタルヘルス)からみた環境適応能力のグループ分けである。
 このグラフをみると、多くの職場に適応できるAグループは、58年に6割を超えていたのが高度成長期あたりから急激に減少し、現在は全体の1割を切っていることがわかる。適材適所型のBグループは反対に高度成長期から急激に増え、現在は4割以上を占めている。また58年にはCグループとDグループを足して2割程度だったのが、現在は全体の半数を超えていることがわかる。

 このデータでは、我慢強い(ストレス耐性の高い)若者が減少し、ストレス耐性の低い若者が増加していることが明らかとなっている。なぜ若者のストレス耐性が低くなったのか、という原因については家庭環境や学校教育、社会状況などさまざまな要因が指摘できるだろう。ただここでは、以前に較べてストレス耐性の強い若者が減っていることを特に確認しておきたい。

若者の「持ち味」も時代によって変遷する

 同じV-CATのデータで、人それぞれの「持ち味」について変遷を追ったものがある。V-CATでは持ち味を16分類でとらえるが、ここではわかりやすいように大きく3タイプに分けている。

【若者の「持ち味」の変遷】

若者の「持ち味」の変遷

タイプ1の「個人主義派」は内向的性格で、自分の興味による選択性が強く、どちらかといえば協調性が低いという特徴をもつ。
 タイプ2の「人情派」は外向的性格で、自分の周囲に興味をもち、人間関係を重視するという特徴をもつ。
 タイプ3の「自己主張派」は自己顕示性が強く、固執性や執着性も強いという特徴がある。

 昭和44年からのデータをみると、平成に入ったあたりから個人主義派が大きく減少し、自己主張派が全体の4割近くまで増えていることがわかる。
 後述するように、持ち味はメンタルヘルスによって発揮のしかたが異なり、メンタルヘルスが低下すると、持ち味はわるい形で表面化する傾向にある。

 自己主張派はメンタルヘルスが低下すると、自己主張が強くなりすぎたり、感情のコントロールがうまくいかずに不満が鬱積すると突如として外に向かって爆発してしまう、ということがある。
 メンタルヘルスと持ち味の2つのデータをあわせ読むと、現在の若者が全体的にどのような傾向にあるかは判断しやすくなるだろう。

作業検査法V-CATとは

 先にも紹介したようにV-CATは、受検者のメンタルヘルスを測る作業検査法の1つである。
 メンタルヘルスというと、これまでは精神医学などの領域として受け止められ、人事部門など一部でその重要性が認められながらも、企業では真正面から取り上げられることの少なかった分野である。それがここにきて、新入社員の問題だけでなく、自殺者の増加など社会問題としても注目を集めるようになっている。

 採用時によく用いられる心理検査には、作業検査法とは別に質問紙法がある。これは用意された質問に対して、受検者が「はい」「いいえ」「どちらでもない」などの答えを選択することで回答していくのが特徴である。この方式は、受検者の常識や知識、または意思を把握できるという長所がある一方で、受検者が意図的に回答することで、作為的な結果を出すことが比較的やりやすいという短所がある。

 作業検査法は、受検者が一定の作業を行なうことで、その間に働くさまざまな要因を測定し、臨床データで検証するのが特徴となっている。質問紙法と違って、受検者の作為が反映されないという長所がある半面、測定できる側面が限られ、決められた作業をしっかり行なわないと臨床データとの照合が困難という短所がある。
 作業検査法の1つであるV-CATでは、受検者は一定の時間、連続加算作業を行なう。1ケタの足し算を連続して行なうというもので、前半と後半で15分ずつ、5分の休憩をはさんで実施する。このようにある程度の負荷をかけた状態の作業結果から、臨床データに照らし合わせて疲労度、習熟度、ストレス反応などを測定し、組織・集団・仕事への適応可能性や保有している能力の発揮度合をとらえる検査である。

 V -CATがもつ最大の特徴は、臨床データの豊富さにある。昭和30年代から学校、官公庁、企業など年齢や職業の違う多くの集団で測定され、現在は年間40 万人の規模で実施されている。このデータの豊富さと新しさは、臨床データによる作業検査法では大きな優位性となっている。

持ち味とメンタルヘルスの関係

 V-CATではメンタルヘルスとともに、受検者の「持ち味」についても測定できる。持ち味とは、人それぞれに備わった固有の特性やその人らしさのことで、心的活動のテンポの速遅、心的エネルギーの強弱の組み合わせから16分類される。一方、メンタルヘルスのほうは、意識性とバランスの2側面から28段階に分けられる。
 持ち味そのものには「よい」「わるい」といった価値判断はない。ただ、その人の持ち味や能力が十分に発揮できるかどうかは、メンタルヘルスの状態にかかってくる。
 持ち味とメンタルヘルスの関係を示すと図のようになる。

【持ち味とメンタルヘルスの関連モデル】

持ち味とメンタルヘルスの関連モデル

 人はある刺激を受けると、それぞれの持ち味に応じた行動に出る。メンタルヘルスが高い状態にあると、外部からの刺激を無理なく受け止めて、持ち味がよい形で十分に発揮される。
 反対に、メンタルヘルスが崩れた状態では、刺激が正しく受け止められず、それに対する反応も歪んだ形で表出される。
 持ち味は先天的な要素が強く、メンタルヘルスは環境や時期によって変化することがある。つまり、同じ人間でも、メンタルヘルスの状態によって、刺激に対する行動が違った形で表れてくる可能性がある、ということになる。

こころの状態を深く知る採用基準と育成法

 冒頭の2つのグラフが示していたように、適材随所型の若者が多かった昭和40年代初めまでは、新入社員は採用後に各職場に配属されても、期待通りの行動をとる傾向にあったと思われる。またこの時代は、画一的な教育方法でも会社に必要な人材が十分に育成できていたと思われる。
 しかし、適材適所型や適材局所型が主流になりつつある現在は、以前とは異なる採用選考基準を設ける必要が出てきたといえるだろう。また、それぞれの持ち味やメンタルヘルスに合わせた教育方法を選ぶことも育成面で求められている。
 採用や教育など人事に関わる多くの場面で、持ち味とメンタルヘルスの視点が必要な時代となってきた。



 

ページの先頭へ