岐阜県美濃加茂市長が浄水プラント導入で賄賂を受け取ったとして受託収賄罪などで起訴された事件で、朝日新聞が市長逮捕直後、賄賂の受け渡しがあったとされる現場に同席した男性が贈賄側業者から「『市長に現金を渡した』と聞いた」と証言していると報じた。しかし、この男性の証言や公判での検察側冒頭陳述、贈賄側の証言で、事実と異なる報道だったことが明らかとなった。美濃加茂市長は逮捕前から一貫して否認しているが、当該記事は、同席者が贈賄側から賄賂の話を聞いていたとの誤った印象を与えた可能性が高い(関連記事=11月23日付レポートも参照)。
美濃加茂市の藤井浩人市長は、市議だった2013年4月当時、経営コンサルタント会社「水源」社長の中林正善氏=贈賄罪で起訴、公判中=から、同社の浄水プラントの市への導入を働きかける見返りに、4月2日に現金10万円、25日に現金20万円の賄賂をもらった疑いで、14年6月24日逮捕された。受託収賄罪などで起訴された後保釈され、市長の職務に復帰。9月17日名古屋地裁で初公判が行われ、現在も裁判は続いている。(写真は日本報道検証機構・田島輔撮影=名古屋地方裁判所)
誤報だったのは、藤井氏が逮捕された2日後の14年6月26日付朝日新聞名古屋本社版26面に掲載された「美濃加茂贈収賄事件 現金授受時?知人同席 『現金渡したと聞いた』」。リードで、中林氏と藤井氏の共通の知人男性が「賄賂の受け渡しがあったとされる現場に同席していたことが愛知県警への取材で分かった」としたう上で、「男性は賄賂の存在について証言した」と報道。県警がこの男性を参考人として事情聴取したところ、「男性は現金が渡された場面は見ていないとしながらも、『中林社長から藤井市長に「現金を渡した」と聞いた』という趣旨の証言をしたという」と報じた。この「共通の知人男性」は、中林氏を藤井氏に紹介した人物。中林氏が藤井氏に賄賂を渡したとされる13年4月2日と25日に、この「共通の知人男性」が同席していたことは事実だが、この男性が中林氏から贈賄の話を聞いていたと報じたのは朝日新聞だけで、他紙は後追い報道していなかった。
検察側は、14年9月17日の初公判の冒頭陳述で、中林氏がこの男性に贈賄の話をしたとは主張していなかった。検察側は、中林氏が8月22日、別の知人とともに美濃加茂市内の中学校に設置された浄水プラントを視察した際、贈賄の話をしたと指摘しているが、賄賂を渡したとされる日に同席した男性とは別人。朝日の報道はこの別の知人と混同して報じた可能性が極めて高い。
10月2日に行われた検察側証人の中林氏は、弁護側の反対尋問で、同席した男性に贈賄の話をしていないと否定。10月8日、この男性が弁護側証人として出廷した際も、同席時に自分は一度も席を立っていなかったと証言し、同席者がいない間に賄賂を渡したとする中林氏の証言を否定。この男性から、中林氏から贈賄の話を聞いたという証言は出なかった。この男性は市長逮捕から間もない7月9日にニコニコ動画のインタビュー番組に出演した際も、同席したことは認めたうえで、現金授受については「見てもいないし、聞いてもいない」と証言。弁護人の郷原信郎弁護士も当機構の取材に対し、この男性は捜査段階でも中林氏から賄賂の話を聞いたという証言はしていなかったと指摘していた。
当機構が朝日新聞に対し、事実誤認ではないかと指摘し、訂正する考えがあるかを質問したが、同社広報部は11月18日、「ご指摘の記事に関しては、裁判で審理が続いており、回答は差し控えさせていただきます」とだけ回答した。
(初稿:2014年11月24日 02:48)