岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長が浄水プラント導入で賄賂を受け取ったとして受託収賄罪などで起訴された事件で、朝日新聞など一部メディアは、藤井氏が市議だった当時、議会で浄水設備の設置を提案していたと報じた。しかし、藤井氏は質問の中で「浄水設備」と特定せずに、「備蓄品」について質問したにとどまっていたことが議事録などで分かった。答弁者が浄水プラントに言及していたが、藤井氏は浄水プラント自体には言及していなかった。藤井市長は逮捕前から一貫して否認しているが、市議時代に議会という場で自ら浄水プラントを取り上げて提案する発言をしていたとの誤った印象を与えた可能性が高い(関連記事=11月23日付レポート、11月24日付レポートも参照)。
藤井市長は、市議だった2013年4月当時、経営コンサルタント会社「水源」社長の中林正善氏=贈賄罪で起訴、公判中=から、同社の浄水プラントの市への導入を働きかける見返りに、4月2日に現金10万円、25日に現金20万円の賄賂をもらった疑いで、14年6月24日逮捕された。受託収賄罪などで起訴された後保釈され、市長の職務に復帰。9月17日名古屋地裁で初公判が行われ、現在も裁判は続いている。(写真は美濃加茂市役所=Wikipedia Commonsより=)
藤井氏は、市議時代の13年3月ごろから担当職員に中林氏から提案された浄水プラントの導入検討を求めていたことは否定していない。だが、14年10月24日の公判の被告人質問では、市議会で自ら提案したことについて否定した。
議事録や検察側冒頭陳述によると、藤井氏は13年3月14日に行われた議会での質疑で、防災施設整備事業に関連し、災害対策の「備蓄品」について質問したが、「浄水プラント」に特定した聞き方はしていなかった。これに対し、答弁した総務部長が、事前に担当部署に藤井氏が検討を求めていた浄水プラントについて、藤井氏の提案だと前置きした上で、導入に向けた検討を進める考えを表明。この答弁を受け、藤井氏は「導入できるものは導入するという考えを検討していただきたい」と発言したが、それ以上の答弁は求めていなかった。
こうした質疑の経過をみると、藤井氏が「議会において」浄水プラントの導入を「提案」したとまでは認められない。藤井氏が事前に担当課に浄水プラントに関する提案をしていたため、議会で前向きな答弁を引き出したのが実態であった。そのため、検察側も冒頭陳述も、藤井氏が議会で「浄水設備の導入を提案した」とまでは言っておらず、「水源の浄水プラントの導入を想定して」質問したと指摘するにとどめていた。
したがって、「浄水設備の設置の検討を求める発言」(朝日新聞6月25日付朝刊など)、「設備設置の検討を促す発言」(中日新聞6月25日付朝刊など)といった表現は、藤井氏が総務部長の答弁を受けた発言箇所を指しているとみられ、事実誤認とは言えない。他方、岐阜新聞6月25日付記事が、藤井氏が「市議会定例会で、防災施設設備事業に関する議案に対して質疑を行い、その中で贈収賄事件のきっかけとなった浄水設備の設置を提案していた」などと報じたのは、議会という場で議員自ら提案を行ったかのような誤った印象を与えた可能性が高い。ほかに、「3月の議会で、ろ過器の導入の可能性について質問」(毎日新聞6月24日付中部本社版朝刊29面)、「市議会で導入を提案」(同25日付1面、7月13日付26面)、「藤井市長が美濃加茂市議会で設備導入を提案」(朝日新聞6月28日付名古屋本社版朝刊35面)、「浄水設備設置を提案」(同7月15日付)、「3月の市議会で提案」(同16日付)といった表現も、同様のミスリードがあったといえる。
毎日新聞社は日本報道検証機構の質問に対し、「市議会での質疑のみならず、市長本人や市当局への直接取材の結果なども踏まえて記事化しており、問題ないと考えます」と回答した。たしかに、6月25日付毎日新聞の記事によれば、藤井氏は23日、同紙の取材に「僕が市の担当課に提案し、市議会で質問もした」と答えたとされる。藤井氏が、予め担当課に提案していた浄水プラントについての答弁を期待して質問した可能性は否定できないが、実際になされた質問自体は「ろ過器の導入の可能性について質問」や「設備導入を提案」だったとはいえない。
平成25年(2013年)3月定例会(第1回) 3月14日議事録より一部抜粋
◆1番(藤井浩人君) 175ページの防災施設整備事業についてお伺いします。
今、地域防災計画の案がパブコメでも出されているところだと思いますが、それにあるような備蓄量には今回の予算ではどれぐらい充填ができるようになるのかということと、もう1点が、これからそのような備蓄というか備えをしていく上で、東京とか名古屋とか進んだ都市部のほうの備蓄品を見ていますと、地方に比べて最新鋭というかすぐれた備えができているんじゃないかなというのを拝見しますので、費用の面は当然考慮した上でなんですが、そういう新しいものをできるだけ今後購入するのであれば導入するという考えがあるのかどうか、お伺いします。
(「議長」と呼ぶ者あり)
◎総務部長(伊藤秀樹君) まず、備蓄の予定につきましては、非常用食料としてアルファ米を400食、それからビスケットを1,750食、それから毛布を100枚、子供用おむつを5,400枚、それから大人用おむつを4,500枚、生理用品を4,500枚等のほか、粉ミルクや離乳食、トイレットペーパー、簡易トイレ等の購入を予定しております。これだけではとても十分ではありませんし、また賞味期限等がある食料につきましては毎年少しずつ買っていって費用の平準化を図っていくということも考えておりますので、よろしくお願いします。
また、新しい技術の導入ということで議員さんからもちょっと御提案いただいておりますけれども、それはプールにたまる雨水の活用ということで御提案いただきました。これについては環境に大変優しいということもありますし、災害時においても有効な水源となるということで、学校の現在の施設ですね、それに簡単に連結ができるかどうか、また維持管理の方法などについても、教育委員会とか、また学校といろいろ協議をしてまいりますし、また業者のほうにもいろいろとこの辺のお話も今後伺って、本当に有効なものであったら導入に向けて検討をしていくということで、よろしくお願いしたいと思います。
(「議長」と呼ぶ者あり)
◆1番(藤井浩人君) まず、備蓄品についてですが、答弁にあったように、徐々に備えていかないと賞味期限等があるのは承知していますが、これも自治体によっては、福祉施設等と上手なバランスをとって、結構面倒なことかもしれませんが、ちゃんとした量は備えながらも回していけるような計画ももしできたらお願いしたいと思いますし、2点目の新技術の話ですが、この前テレビで見たのでは、マンホールを簡易式トイレにするだとかいろいろな取り組みが、今アイデアがありますので、しっかりした精査をしていただいた上で、導入できるものは導入するという考えを検討していただきたいと思います。以上です。
(初稿:2014年11月25日 07:20)