年を取ると「男らしさ」は失われていく。残念なことだが、いつまでも若い頃の外見・体力・健康は保てない。それを防ぐにはどうすればいいのか? この連載では第一線で活躍する専門家たちに「男のアンチエイジング」の最先端を解説してもらう。今回のテーマは「スポーツと男性ホルモンの関係」。運動のやりすぎは男性ホルモンにも悪影響があることがわかってきた。マラソンにハマっている人は要注意だ。さらに男性ホルモンを増やす運動もあるとか。そこで、ドクターランナーとしても活躍している、よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック(神奈川県横須賀市)の奥井識仁院長に解説してもらう。
今回は「スポーツと男性ホルモン」の話。以前も触れたように、運動で筋肉に刺激を与えると、血液中のテストステロン(主要な男性ホルモン)の数値が高くなることがわかっている(Metabolism.1996 Aug;45(8):935-9)。しかし、なぜそんなことが起こるのだろう? 性ホルモンとスポーツの関係に詳しく、みずからも「ドクターランナー(一緒に走りながら選手の健康管理や応急処置を行う医師)」として多くの市民マラソン大会やトライアスロン大会に出場している、よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック(神奈川県横須賀市)の奥井識仁院長は「男性ホルモンが筋肉で消費されるため」と説明する。
「運動で筋肉が刺激されると大量のテストステロンが分泌され、筋肉に運ばれる。筋肉細胞のアンドロゲン・レセプター(男性ホルモン受容体)にテストステロンがくっつくと、細胞分裂を促進して筋肉を増やし、使われたテストステロンは消えてなくなる」
実際、フルマラソンのような激しい運動をした直後には、血液中のテストステロン量がガクッと下がることが確認されている。
テストステロンが「運動で消費される」証拠として、奥井院長は前立腺がん患者の例を出した。前立腺がんはテストステロンをエサに成長する性質を持つ。そのため治療では手術でがんを摘出するとともに、テストステロンを抑える薬が欠かせない。
一方で、前立腺がんの経験者が運動すると、再発や転移が少なくなることもわかっている。例えば2750人の前立腺がん患者を追跡調査したハーバード大学(米)の研究がある。うち117人にがんの再発・転移・死亡が見られた。そのリスクを1.0としたとき、「週3時間以上のウオーキング(早歩き)」をした人のリスクは0.4に抑えられることがわかったという(Cancer Res. 2011 Jun 1;71(11):3889-95)。
これは「運動でテストステロンが使われた結果、前立腺に向かう量が減ったためではないか」と奥井院長は推測する。実際、前立腺がんになった人が長距離を走ると、「前立腺がんの指標となるたんぱく質PSA(前立腺特異抗原)とテストステロンが、どちらも走る前の半分に減っていた」という。