自民党の政権公約は「景気回復、この道しかない」と掲げ、経済再生と財政再建をともに実現すると宣言している。

 消費税率の再引き上げを先送りしても、基礎的財政収支の赤字を目標通り減らし、子ども・子育て新支援制度をはじめとする社会保障政策も進めていくという。本当に実施できるのか、かつての選挙公約のような「あれもこれも」式の空手形にならないのか、安倍首相らは道筋を示さねばなるまい。

 首相自ら「アベノミクス解散」とうたう通り、政権公約は経済対策に重点を置いている。強調しているのは、過去2年間の実績だ。

 「就業者数は約100万人増加」「賃上げ率は過去15年で最高」。確かにこれらの数字は、第2次政権発足以来の株高ともあいまって安倍氏の経済政策がそれなりの成果を上げてきたことを示している。

 ただ、首相自身が認めるように、その果実は中小企業や地方には行き届いていない。問題の本質はそこにある。

 本来なら、株高などの恩恵に浴する富裕層から富がしたたり落ちる「トリクルダウン」効果が出て、多くの国民が景気回復を実感できるようになるのかが問われるはずだ。それなのに、そこにいたる道筋は、次のように極めて抽象的だ。

 「雇用や賃金の増加を伴う経済の好循環をさらに拡大し、全国各地への波及を図る」「燃油高騰や米価下落などに十分配慮し、力強い景気対策を速やかに実施する」。公約の詳細版である「政策BANK」をめくっても具体策は乏しい。

 民主、自民、公明による2年前の「社会保障と税の一体改革」の3党合意には、国民に負担増を強いる苦い決断を与野党で分かち合う意味があった。それをないがしろにする形で踏み切った衆院選だというのに、政権党の公約が抽象的なかけ声にとどまっていては、アベノミクスの将来にも不安が募る。

 一方、有権者の賛否が分かれる課題には、簡単に言及しているだけだ。

 安全保障では「集団的自衛権」の言葉は使わず、「平時から切れ目のない対応を可能とする安全保障法制を速やかに整備する」と触れた。原発再稼働では、相変わらず原子力規制委員会任せの書きぶりだ。

 首相は「アベノミクスは成功だった。今後も続けるから、将来のことはみな白紙委任しろ」とでもいうのだろうか。

 とうてい納得の得られるものではない。