「宗教崩壊」

住職が去り放置される過疎地の寺

島に若住職がやってきた(上)

  • 鵜飼 秀徳

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2014年11月26日(水)

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 多くの寺や神社が存続の危機を迎えている。少子高齢化や地方の過疎化、後継者不足など、ありとあらゆる要因が大波となって宗教界に押し寄せている。

 僻地にある寺院や神社の多くが、住職や神職が不在となり廃墟と化している。「宗教法人の解散・合併」も水面下で進行中だ。大都市圏と僻地の「宗教格差」も広がっている。

 「このままでは10年後、日本の寺や神社が半減する」。危機感を抱いた一部の仏教教団は、対策に乗り出している。だが、抜本的な策は見えてこない。

 「宗教崩壊」は私たちに何をもたらすのか。また、社会全体として、どんな影響が出るのだろうか。

 文化庁の『宗教年鑑2012』によれば、日本の仏教徒は約8513万人。神道を信ずる者はさらに多い。しかし、現役のビジネスパーソンにその実感は乏しい。

 「今は、まだ親が生きていて、自分はお寺さんとは無関係」「兄弟に任せている」「葬儀は不要、散骨でいい」「永代供養にしてほしい」という人も多いのではないか。

 だが、「死後」はいずれ万人に、例外なく訪れる。その時、あなた自身を含め、多くの人は宗教と無関係ではいられないはずだ。

 既に不穏な前兆はないだろうか。「菩提寺にあるはずの祖父母の墓が忽然と消えていた」「最近、高額な霊園の勧誘が増えてきた」「実家に久しぶりに戻ったら、本棚に怪しい宗教まがいの本が並んでいた」「気がつけば自分の入る墓がない」……。

 宗教崩壊が社会の歪みをもたらすことも心配される。寺や神社が物理的に消えるという「物的崩壊」は既に進行中だが、同時に「心の崩壊」も進んではいないだろうか。

 この連載では、崩壊が進む現場だけでなく各宗教教団本部にも取材し、「宗教崩壊」の実態を複数回にわたってリポートする。宗教関係者だけでなく一般のビジネスパーソンにも分かりやすく宗教界の真実を伝える。文中の仏教用語に解説を付けるなど、いざという時に役立つ仏教知識も得られるように構成する。

 第1回は、長崎・五島列島の現状を取材する。過疎の寺を守らんとする若き住職や島人に焦点を当てた。

宇久島より五島の島々を俯瞰する

 長崎県・平戸の沖合に浮かぶ宇久(うく)島は、佐世保港から高速船を使っておよそ1時間半の距離にある五島列島最北の島である。

 島の周囲は約38km。五島列島の中でもひと際小さい存在だが、有史以来、海の要衝としての役割を担ってきた。

 北方向に日本海が大きく開け、西の方向約200km先には韓国の済州島がある。その見晴らしの良さから、太平洋戦争時には島の中心にある城ヶ岳(標高258m)山頂に、電波探知施設と高射砲台が据えられ、旧日本海軍の前線基地となっていた。

 五島列島全体で見れば、多くの島は江戸時代、隠れキリシタンが幕府の弾圧を逃れて潜んだことでも知られる。各島にはカトリック教会が多く残された。現在、五島列島はユネスコ・世界遺産の候補「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」に挙げられており、将来的には観光産業の盛り上がりが期待できる場所である。

 しかしながら列島の最北に位置する宇久島は、村おこしの資源となりうる教会が1つもない。

 それどころか、観光客の目当てになりそうなスポットや、ご当地の名産物はほとんど見当たらない。宿泊施設と言えば民宿がいくつかあるほか、ビジネスホテルが1軒。アクセスも至極悪く、佐世保から宇久島まで往復船賃が7200円(高速船、往復割引料金)かかることなど、観光目的でこの島に入る者はあまりいない。

 良くも悪くも観光地化されていないのだ。


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