曲がり角の原発大国 米国の事情
ウラン開発計画再び 日本の原発向け
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長らく放射能で大地を汚され、やっと除染が始まった「国」がある。
米国の先住民ナバホ族の自治政府がある「ナバホ国」だ。ニューメキシコ、ユタ、アリゾナの3州にまたがり、約7万平方キロに25万人が暮らす。
米国環境保護庁(EPA)によると1944〜86年、ナバホ国で約400万トンのウラン鉱石が採掘された。主に核兵器の開発用だった。その後、カナダや豪州との価格競争に敗れ、500以上の鉱山跡が残されたままだ。
米国とナバホ国は2008年から5年かけて放射能汚染の状況を調査。鉱山跡の約半分は自然界の10倍の線量で「住民が近寄ってはいけない」レベルだった。近くの民家や建物、飲み水にも汚染が見つかった。米国は次の5年間で除染や住民の健康調査をする。
そのナバホ国の近くで再び、日本の原発向けのウラン鉱山開発計画が持ち上がっている。住友商事は07年、カナダの企業と共同でニューメキシコ州のウラン産地を調査する「ロカ・ホンダ計画」を発表した。
日本はカナダや豪州からのウラン輸入に頼ってきたが、中国やインドが原発建設を推進してウラン不足が懸念されはじめると、07年に日本政府が国内企業を後押しする「海外ウラン探鉱支援事業」を始めた。住友商事の計画も約2億5千万円の補助を受けた。
ナバホ族を含む5先住民族は反対の声を上げた。計画予定地は彼らの居住地に囲まれ、「聖なる山」テイラー山のふもとだからだ。豊かな水脈は先住民族の生活を支えている。
反対運動をするナバホ族のレオナ・モーガンさん(33)は「私たちは、また他国の犠牲にならなければいけないのでしょうか」と憤る。実家のすぐ近くにもウラン鉱山跡があり、近所では「鉱山で働く父、その作業着を洗う妻、父の残った弁当を食べた子ども、家族がみんな体を悪くした」という話をよく聞いた。
東京電力福島第一原発の事故後、ロカ・ホンダ計画の先行きは不透明になりつつある。ウラン価格が低迷し、生産開始は当初の13年から遅れている。「開始時期は具体的に話せる段階にない」(住友商事広報部)という。モーガンさんは「企業がウラン開発を急がなくなったのは、私たちには良いこと。でも、土地を汚染された福島の人々の気持ちは分かる。とても複雑」と話した。(山田理恵)
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