夜、一人でランニングしていると、次第に疲れてきてついつい歩きたくなってくる。
誰も見ていないし、少しくらい歩いた方がかえって健康によいのだ、休むこともまたトレーニングなのだ、ナンバーワンよりオンリーワンなのだ、などと勝手な理屈やフレーズが湧いて出てくる。
しかし、そんな時には「小公女」のようにあれこれ妄想すると効果的だということを発見した。
「自分は決して一人で走っているのではない!大勢のマラソンランナーが走る中で、トップ集団のそのまたトップを走っているのだ!アベベ、イカンガー、瀬古、宗兄弟、Qちゃん、欽ちゃん、寛平ちゃん、村上春樹などと一緒になって走っているのだ!テレビ中継の視聴率は68%なのだ!」
と、無理矢理でっちあげたポジティヴなイメージと共に走っているとさほど疲れない。
ついでに沿道の声援や振られる旗、先導車、アナウンサーや解説者の台詞まで妄想するとさらに疲れ知らずだ。
アナウンサー:すごいペースでトップを走っているのがケニア出身のアンコロ・メー選手です!この無名の選手が、信じられないほどのスピードでトップ集団をグイグイ引っ張っています!
解説者:このペースで行くと、1時間50分台の記録が出そうですね。
しかしそれでも疲れてくると、妄想の力が弱まってくる。
アナウンサー:ああ~っと、メー選手の足が止まりそうだ~!ペースがどんどん落ちている~!このままではトップ集団から抜け落ちてしまう~!
解説者:この辺でもう歩くしかないでしょうね。素人は無理せず、ほどほどに休むことが肝心ですからね。
この辺りで少しペースを抑えて、大勢に抜かれた後で、また背後からトップ集団をゴボウ抜きにするイメージを描くと効果的である。
アナウンサー:おお~っと!一旦は引き離されたメー選手、再び勢いを取り戻してまたもやトップだ!しかも、短距離走者のようなスピードで快走しているぞ!
解説者:これはもう、世界新記録が見えてきましたね!
アナウンサー:我々は今、歴史的瞬間に立ち会っているのです!
解説者:その通り!頑張れ、メー選手!あと50メートル!30メートル!
アナウンサー:やりました!ついにゴールです!記録は1時間58分12秒!!
解説者:おめでとう!世界新記録です!
と、こんな感じで終わるのがベストの流れだ。
よく「自分との戦い」なんてことを言うが、自分の弱気と自分の妄想とを戦わせると、妄想の勝率がかなり高い。
コツは逆転、世界新記録、ウソのように調子をよくする、という三点だろうか。