インタビュー アウグスビール
ビール業界のファブレスメーカーとして生産、流通、そして味の差別化を徹底
週刊ホテルレストラン 2011年5月13日号 38-39ページ掲載
工場を持たないこと、製造から流通まで徹底して温度管理するなど、大手と差別化した戦略で事業を展開するアウグスビール。レストランで本物志向のビールを飲みたいと思う客こそターゲットとし 、プレミアム感ある商品を生み出すことに成功しているビールメーカーだ。同社の坂本健二社長に、商品の特徴と事業戦略を聞いた。
聞き手・本誌 久保亮吾
うまいとかまずいとかメーカー側が決めるな
--新進気鋭のビールメーカーということで注目を集めているアウグスビールです。そもそも、起業のきっかけは。
私はかつて、キリンビールに在籍して10年間アメリカ市場で営業をしていました。当時は日本国内でトップシェアだったキリンですが、アメリカでの販売はなかなか厳しいものでした。なぜならアメリカはライトビールの国で、向こうの方々にはキリンは重たすぎるのです。
「もっと軽い味のビールを開発してくれ」と、研究開発チームには何度も相談したのですが、そこは天下のキリンです。「味の分からんやつは飲まないで結構!」と、そういうスタンスなわけです。
その後、私はバドワイザーに移り、日本の営業担当になりました。今度はアメリカの軽いビールを日本人に飲んでもらう。これまた営業は苦戦。
「もっと重いビールを開発してくれ」と開発チームに頼んでも、バドワイザーは世界最大のビールメーカーですから強烈なプライドがあって、これまた「味の分からんやつは飲まないで結構!」なわけです(笑)。
アメリカと日本で、実に20年にわたって苦労をし続けた結果の私なりの結論が、「ビールのうまいとかまずいとかはメーカー側が決めちゃいかん。お客さまがうまいというものがうまいんだ」ということでした。
--プロダクトアウトの発想ではだめだということですね。
そうです。それで、お客さまが「うまい!」というビールを売りたいという気持ちが強まって、オリジナルのクラフトビールを造ることにしたのです。
さきほども申しました通り、味の好みはまちまちです。しかし、一つだけ間違いなく言えることは酵母をろ過してしまう前にタンクから直接飲むビールは絶対にうまい。つまり、生きた酵母の入った本当の生ビールです。これのことを業界では「どぶ(無ろ過)」と呼びますが、これをお客さまに飲んでいただきたいと思ったのです。
そういう思いで作ったのが「アウグスビールオリジナル」。ピルスナービールの原点に立ち返り、原料、製法、温度管理を徹底した無ろ過の樽生ビールです。自信はありましたが、「うまいまずいはメーカーが決めない」の考えに基づいて、お客さまに目隠しでテイスティングをしていただくパブテストを繰り返してから商品化しました。
醸造、流通、そして味ファブレスで差別化
--工場を持たないことなど、大手メーカーはもちろん、これまでの地ビールメーカーとも差別化されていますね。
「どぶ(無ろ過)」は温度が高いと酵母が再醗酵して味が変化してしまいますので、流通には気を使っています。輸送はもちろん冷蔵トラック、工場から直接店舗に納品し、店舗でもタンクを冷蔵保管していただくことをお約束いただいています。つまり、弊社の商品は、工場で醸造されるところからお客さまの口に入るまで冷えたまま流通します。仮に店舗の方から「○○酒店から納品してくれ」と言われた場合、酒店を通しての購入は可能ですが、工場から弊社が納品するというシステムは変えません。これだと酒販店は手間なしで手数料が入りますね。でも、酒販店で在庫を常温保存されては意味がないので、この方式は絶対です。
また、弊社は福島、御殿場、宇都宮、伊丹などの工場で醸造していますが、いずれも自社の工場ではありません。それぞれ地元の地ビール工場であり、そのラインを間借りする形で生産しています。ファブレスメーカーということですね。
1994年に規制緩和によって全国各地に地ビールメーカーが設立されましたが、ピーク地に300社近くあったのが、現在は200社程度。また、100%稼働している工場は少ないので、稼働していない部分を借りて醸造しているのです。
リスクヘッジの観点から、今回の震災でファブレスであることが注目されました。福島のラインは厳しい状態になったのですが、即座にその分の生産量を御殿場に移すことができたので問題ありません。
しかし、本来的にはわれわれがファブレスを選択した経緯は工場と店舗を近づける工夫の一つです。店舗の近くで生産し、酵母を殺さず店に届けることが重要なわけですから。
現在、年間20万リットルを生産し、350店舗に供給しています。
BrewingOscar's 金賞受賞
--ビール界のオスカーとも言われる「The Brewing Industry International Award」で金賞を受賞ですね。
受賞したのは「スノーブロンシュ」というホワイトタイプのエール。2月13日の発表で32のビールが金賞を受賞したのですが、中でも「スノーブロンシュ」は4月11日に、スペシャリティビール部門でチャンピオンの認定を受けました。感無量です。
日本人が造るビールは世界的にも評価が高い。今後は品種を増やすだけでなく、ベルギーのシメイのように時間経過を楽しむビールを造りたい。例えば「今日は5年ものの○○を飲もう」というふうに、ワインのように楽しめるビールです。
大手にはできない、小さいメーカーだからこその強みを出していくつもりです。
関連情報
- アウグスビール株式会社
- URL:http://www.augustbeer.com/