ビキニ水爆実験:被ばく元船員の歯が証言 研究者に提供へ
毎日新聞 2014年11月25日 05時30分
1954年、米国が太平洋ビキニ環礁で実施した水爆実験の被ばく実態の解明に役立てようと、高知県歯科医師会は傘下の約360診療所に対し、被災した元漁船員を治療する際に抜いた歯を、星正治・広島大名誉教授(放射線生物・物理学)らの研究グループに提供するよう呼び掛ける。歯のエナメル質に残った放射線の痕跡から被ばく線量を計測するため。同会の織田英正会長は「元船員たちは高齢で、事件の風化が懸念される。できる限りの協力をしたい」と話している。
研究グループは元船員らの健康調査を進めており、過去に男性2人から歯3本の提供を受け、エナメル質の電子異常を調べて被ばく線量を計測した。うち実験現場の東約1300キロで遭遇した元漁船員の歯からは最大414ミリシーベルトが計測され、広島原爆の爆心地から約1.6キロの線量に匹敵した。歯のエナメル質は細胞と異なり代謝がないため、放射線の影響が減少せずに残るという。
ビキニ事件は静岡県のマグロ漁船「第五福竜丸」が死の灰を浴びたことで有名だが、研究グループによると、遠洋漁業などの延べ1000隻が被災した可能性がある。研究グループはサンプル数を20〜30本に増やせれば、一般の人の被ばく線量との比較など精細な研究・調査が可能になると考え、中心メンバーがいる高知県の歯科医師会に協力を打診した。高知県内には元漁船員数百人が存命と推測される。同会は10月の理事会で「亡くなってからの抜歯は法的に難しい」として、患者の同意を前提に抜いた歯を研究グループに提供することを決めた。診療所に協力要請の文書を掲示するなどして、提供者を募る。
研究グループのメンバーで、市民団体「太平洋核被災支援センター」事務局長の山下正寿さん(69)=同県宿毛市=は「被ばくを科学的に実証し、ビキニ被ばくの実相を暴ける最後のチャンス」と期待している。【最上和喜】