日銀は25日、追加金融緩和に踏み切った10月31日の金融政策決定会合の議事要旨を公表した。追加緩和に賛成した委員からは、政策の逐次投入と市場に受け取られないよう「可能な限り大きな規模を目指すべきだ」との声が多かった。一方、反対派は追加緩和しても「コストや副作用に見合わない」との懸念を示した。日銀の政策委員間で意見が大きく割れた決定だったことが改めて浮き彫りになった。
日銀は10月31日、13年4月に黒田東彦総裁の下で量的・質的金融緩和を導入して以降、初めて金融政策を変更した。黒田総裁が追加緩和案を議長提案し、全9人の政策委員のうち賛成が5票、反対が4票と、薄氷を踏む多数決だった。正副総裁と宮尾龍蔵、白井さゆりの両審議委員が賛成。森本宜久、石田浩二、木内登英、佐藤健裕の各審議委員が反対に回った。
追加緩和の理由は、急速な原油安に伴う物価上昇ペースの鈍化だった。多くの委員が足元の原油安を前提にすれば物価の押し下げが「来年度前半ごろまで続く」と指摘し、物価見通しは「下振れる」と語った。
金融政策への賛否は割れた。追加緩和への賛成派は、物価上昇ペースの鈍化で「デフレ心理の転換が遅れるリスクが大きい」と指摘。このタイミングで追加的な金融緩和を行うべきだ」との主張が相次いだ。
賛成派のひとりは、年末から来年にかけては「企業が事業計画を策定したり、賃金交渉を行ったりする重要な時期」だと強調。追加緩和で企業の脱デフレ心理を後押しする必要性を訴えた。
黒田総裁は2年程度で2%の物価上昇率を達成できるとのシナリオが崩れれば、ちゅうちょなく追加緩和すると繰り返してきた。ある賛成派は、追加緩和しなければ「コミットメント(約束)をほごにしたと理解され、日銀の信認が大きく損なわれる」と強調した。
一方で、反対派からは「追加緩和による効果は、それに伴うコストや副作用に見合わない」との慎重論が相次いだ。
追加緩和で国債の大半を日銀が買い入れれば「国債市場の(取引が急減し)流動性を著しく損なう」との声が相次いだ。日銀が政府の財政赤字を補填する財政ファイナンスに陥ったと「実質的にみなされるリスクがより高くなる」との懸念も何人かの委員から上がった。
追加緩和で円安が進めば「景気回復を下支えしてきた内需型の中小企業への悪影響が懸念される」と指摘した反対派委員もいた。4月の消費税率引き上げ分などを加味すると「物価は相応に上昇しているというのが家計の実感だ」との声も複数から上がった。
議事要旨では政府からの出席者が財務相と経済財政相に連絡するため、追加緩和の採決前に約10分間、議事を一時中断していたこともわかった。
議事要旨は、追加緩和の決定を巡って個々の委員がどんな意見を示したのかは明らかにしていない。「多くの委員」や「何人かの委員」など匿名化して会合で出た意見を紹介している。
日銀は31日決めた追加緩和で、長期国債を買い入れるペースを従来より30兆円増やして年80兆円とした。上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の購入量は従来の3倍に増やすことなども決めた。
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