<佐藤可士和はデザイナーとは名乗らない>セブンイレブンのコーヒーメーカーを批判することの無意味さ
岩崎未都里[ブロガー]
***
「デザイナーっていう奴等、ろくな仕事しないから嫌いなんだよ」
とは、筆者の友人の言。
「あの、佐藤可士和ってデザイナーの作ったセブンイレブンのコーヒーメーカー、英語表記部分にテプラが貼られてるよ。英語表記がカッコいいとか安易にするからこの始末だ。美しい平仮名表記にしろ。」
と、自論と共にデザイナー蔑みます。
友人の自論は一見「ごもっとも!」と思われるでしょう。他の方々からもこの手の「デザイナー」批判をよく聞くのです。 佐藤氏と同じ美大出身の筆者がまず言っておきます。
世の中が「デザイナー」と指す「彼等」の名刺には「デザイナー」と書かれていません。役職的にアートディレクターなどは書かれても、自ら「デザイナー」とは決して書かないのです。
例として佐藤氏の仕事内容が世の中のイメージする「デザイナー」なのか、を、敢えて書きます。佐藤可士和氏の仕事とセンスは広く知られており、業界でも「ビジネスの話ができるアートディレクター」「経営のことを理解している」など高い評価を得ています。
佐藤氏はコーヒーメーカーだけでなく、セブンイレブンホールディングスのブランディング全体を請け負っているのはご存知でしょうか。コーヒーメーカーに関してはブラックとシルバーのシンプルなデザインを作り上げたのは、彼の趣味で決めたわけでは無く、セブンイレブンの依頼に沿ってデザインしたものなのです。
セブンイレブンホールディングスの仕事では、
「会長と1対1の面談を、長期間繰り返してブランド戦略を練ってきた」
といいます。2013年にはセブンイレブンはなんと他社の倍、1万6000店舗へコーヒーメーカーを設置しました。「カフェに行かなくても美味しいコーヒーがコンビニで飲める」という文化を定着させ、更にコーヒーを買うついでに他商品も購入することを念頭においたプロジェクトでもあったのです。
佐藤氏の仕事のコンセプトは、
「クライアントの課題やニーズにあわせてデザインする。企業の問題を解決していくための手段がデザインである。」
・・・なのだそうです。ここまで読んで、佐藤氏の仕事は、世の中のイメージする「デザイナー」の認識とはズレがあることがわかると思います。勿論、佐藤氏の名刺にもデザイナーとか書かれていません。
筆者には、 グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、アパレルデザインetc・・・と、様々な「デザイナーとイメージされる」職種の友人達がいますが、彼等の名刺肩書きにも、「デザイナー」とは書かれていないのです。
グッドデザイン賞など多数受賞する友人のカーデザイナー氏もこうこぼしてます。
「なぜ自分の名刺にデザイナーと書いてないのですか?」
と憤慨する新入社員に切々と
「自分でデザイナーというデザイナーはいない。人から呼ばれて初めてデザイナー。国家資格など無いからね。」
と、諭すそうです。画家は自分で決めたらその日から肩書きは画家なのですが、デザイナーは違うのです。デザイナーでありながら教育者、研究家、絵本作家などの顔を持つブルーノ・ムナーリは、「デザイナーとは何か?」ということについて、著書『芸術家とデザイナー』(みすず書房・2003)のなかで次のように言っています。
「芸術の源泉は『個』にあり、デザインの発端は「社会」にある。」
芸術家の目的は「自分の信念を伝える」ことにあります。一方、デザイナーの目的は、それにより生み出されたプロダクトが「広く消費される」ことです。故に芸術家は究極的には「自分や、自分と認めてくれるパトロンのため」に仕事をするし、デザイナーは「すべての共同体のため」に仕事をするのです。
ムナーリは次のようにも説明しています。
「平たく言えば、芸術家の夢は美術館にたどり着くことであるが、デザイナーの夢は市内のスーパーにたどり着くことである」
佐藤氏は「最低なデザインだ」と言われても、「新しいプロジェクトには賛否両論話題になることも想定内」と気にもしないでしょう。何故なら既に結果が出ています。
2014年の大手コンビニ5社の店頭コーヒー販売計画は合計で13億杯。中でも年6億杯の販売数を目指すセブンイレブンはシェアの半数を占めて、独占トップを維持し続けています。(日経新聞より)
2020年の東京オリンピックへ向け世界基準・スターバックスと同じ「略表記されたコーヒーメーカー」に消費者も慣れてゆくでしょう。結果でクライアントに応える。 これが今のデザインであり「デザイナーの仕事」なのです。
[メディアゴン主筆・高橋のコメント]放送作家で名刺に放送作家と肩書を刷り込んでいる奴は、大体がろくなもんではありません。
[メディアゴンチーフエディター・藤本のコメント]世の中のイメージする「デザイナー」の仕事をして、大学でメディアやらデザインやらを教え、日本グラフィックデザイナー協会の正会員であり、さらに情報デザインで博士号まで取得してしまい、しかもデザイン事務所を構えている自分(藤本貴之)の名刺を改めて確認してみました。「東洋大学 准教授/博士(学術)/藤本情報デザイン事務所・執行役員クリエイティブディレクター」とありました。ギリギリセーフでしょうか?
【あわせて読みたい】
- ヴェネチア・ビエンナーレ日本館のキューレーター(学芸員)は、なぜ有給休暇をとって参加しなければならないのか
- <リスクを背負ってでも、伝えるべき時がある>ユニセフ賞受賞映画『with…若き女性美術作家の生涯』
- <ドラマ制作から知るTOYOTAのマーケティング哲学>マーケティングはデザインなどのクリエイティブ分野には立ち入らない
- <ハロウィンに乗り遅れ?>クリスマスは根付き、バレンタインデーは通り過ぎ、ハロウィンは…。
- <新生!KADOKAWA・DWANGOに行ってみた>伝統を重んじながらも肌で感じる正義感とスピード感
More from my site
岩崎未都里
最新記事 by 岩崎未都里 (全て見る)
- <佐藤可士和はデザイナーとは名乗らない>セブンイレブンのコーヒーメーカーを批判することの無意味さ - 2014年11月23日
- <デジタルサイネージ広告って本当のイイの?>2015年秋からの新型JR山手線で「中吊り広告」が撤廃 - 2014年11月18日
- <ドラマ「ファーストクラス」は復活するか?>ファッション業界ドラマの面白さは「マウンティング」 - 2014年11月14日