再稼働後SPEEDI活用せず・規制委
福島の原発事故で政府による拡散予測の公表が遅れて批判された緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」について、原子力規制委員会は原発の再稼働後に事故が起きても活用しない方針だ。予測の精度を見通せないためとしているが、予測に期待する自治体もあり、再稼働が近づく中、波紋が広がる可能性もある。
<「命に関わる」>
「拡散方向の情報は絶対に必要だ」。福島県浪江町の元副町長、渡辺文星さん(64)は規制委の方針を批判する。
福島第1原発の正門で極めて高い放射線量が測定され、放射性物質の大量放出があったとみられる2011年3月15日。渡辺さんらは前日の3号機の水素爆発を受け、いったん避難した町北西部から、さらに遠方への避難を決めた。
15日昼ごろから夕方にかけて住民が順次移動したが、一部のルートが放射性物質の拡散方向と重なることを示すSPEEDIの予測が存在したことを後で知った。
渡辺さんは「命に関わる問題。被ばくを避けられる可能性がある以上、予測の公表には意味がある」と強調する。
<混乱招く恐れ>
SPEEDIは放射性物質の放出量や気象予報データから拡散状況を予測。福島の事故では予測の前提となる放出量のデータが得られず、政府は避難に活用しなかった。
福島事故の各調査委員会の評価は分かれ、政府事故調は、避難の方向を判断するのに有用だったと指摘。国会事故調は、初動の避難指示には役立たなかったとの見方を示している。
原子力規制委は12年秋の発足後、事故直後に精度の高い予測ができる保証はないとして、周辺で実測した放射線量に基づき、避難を判断する仕組みに変更。今年10月には、予測による判断は「被ばくリスクを高めかねない」とし、参考情報としても今後は原則として使わない方針を決めた。
福島の事故当初、政府はパニックを恐れ予測をすぐ公表せず「隠蔽(いんぺい)」との批判を浴びた経緯もあり、予測後は精度の保証がなくても公表を迫られる。避難基準に達しない地区の住民も逃げ始めるなど混乱も予想され、活用に踏み切れないのが規制委の本音だ。
<実測と併用を>
しかし原発周辺の自治体からは「放射線が測定される段階での避難では遅い」などと拡散予測に期待する見方は根強い。
年明け以降に再稼働が見込まれる九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の周辺では、風向きに敏感な住民も多い。予測の実施を前提に「異なる方角の避難先も2、3案必要」(同市内の自治会)との声も上がる。
SPEEDIを開発した日本原子力研究開発機構の茅野政道氏は「実測と予測には、数値の正確性や予測性などで長所短所がある。両者を組み合わせて汚染分布を把握する仕組みの検討が必要」と指摘している。
2014年11月25日火曜日