「政権発足以来、雇用は100万人以上増えた」
「有効求人倍率は、22年ぶりの高水準」
「この春、平均2%以上給料がアップ。過去15年間で最高」
安倍首相のこれらの文言を聞きながら、数年前に1人の学生から送られてきたメールを読み返していた。
おかしい。何かおかしいよ。これでいいわけないじゃん――。そんな気持ちで一杯になった。暗澹たる気持ち、っていうのは、こういうのを言うのだろう。
で、何度もメールを読み返しながら、
「もっと知ってもらいたい。というか、知るべきだ」
と、思った。
そこで今回は、彼からのメールの一部を取り上げる。
そして、みなさんにも考えてもらいたい。もちろん私もいつものように、脳内のサルとウサギとタヌキと相談しながら、アレコレ勝手ばかり言う。未熟な意見で、どこまで納得できるものになるかわからない。だから、みなさんにも一緒に考えていただきたいのです。
ジョブズの話を聞いて、大学を辞めようと思った
では早速、“20歳の学生のリアルな声”をお聞きください。
「先生が講義でスティーブ・ジョブズを取り上げた時に、僕は大学を辞めようと、決心しました。僕の両親もジョブズと同じで、僕の学費のために生活を切り詰めて、必死で働いていた。なのに、僕はずっとそれを、見て見ないふりをしていました。だって、周りの人たちはみんなお金持ちで、帰国子女もたくさんいて。僕はついていくのに必死だった。でもジョブズのスピーチを聞いて、僕も大学を辞めようと思ったんです」
「ホントウに辞めて、働こうと思っていました。でも、最後の講義で先生が、傘を貸してもらったときの話をしてくれたでしょ? あれを聞いて、辞めるのやめることにした(笑)。僕が今やるべきなのは退学じゃなく、目の前のことをちゃんとちゃんとやって(これも先生が教えてくれたこと)、大学をちゃんと出て、自立することだと考えるようになったからです。それが傘を貸してくれた親に対して、僕が唯一できることだと今は考えています。僕が奨学金をもらうことに親が反対したのも、両親から僕への傘だったんだと思います」
「実は、こないだ実家に帰ったら、親が僕が○○大学にいっていること、自慢してるって知りました。前の僕だったら、そんな親を軽蔑したと思う。でも、今はちょっとだけ親孝行できたかなって思えます。父は高卒で、大学を出なきゃダメだっていうのが口癖だったから。それに、『傘を差し出してもらった人に唯一できることは、途中で放り出さないこと』ですよね? だから、とにかく踏ん張ります。先生が言っていたように、めげそうになったら、今の気持ちを何度でも何度でも、思い出すようにします」
以上です。ちょっとばかりわかりづらいところがあると思うので、補足しておく。
まず、彼が聴講していた講義では、毎回、講義内容に関連する人物を取り上げている。彼が、「大学を辞めようと決心した」とする回では、スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォードの卒業式で学生に向けたスピーチを紹介した。
ジョブズは実母が、未婚の大学院生だったため、生まれてすぐに養子に出された。で、養子縁組したとき、実母が唯一出した条件が、「息子を大学に必ず行かせてほしい」ということだった。