(2014年11月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
米国の小売り企業が年間最大の繁忙期に向けて準備を進めるなか、在庫がなさそうな品目が1つある。国際的な事業拡大がそれだ。
金融危機の間、小売り企業の経営トップは世界征服の幻想を捨て、コスト削減と国内での生き残り模索というあまり魅力のない作業に専念した。だが、他の業界が勢いよく国際的なM&A(企業の合併・買収)に回帰したのに対し、小売り企業は国内に踏みとどまっている。
海外へ目を向けることを渋る態度は、多くの小売り企業が海外のM&Aで経験してきた困難と、米国の消費性向の構造的変化の両方を反映している。
小売り企業を本拠地にとどめているもう1つの要因は、欧州や日本と比較すると、米国の景気回復が力強いことだ。先ごろ、米トムソン・ロイターとミシガン大学が共同で調査している消費者態度指数は89.4となり、2007年7月以来の高水準を記録した。
「しばらくの間は、国際化が小売り大手のライフサイクルの次の段階になると期待された」。バークレイズで消費財・小売り向け銀行業務のグローバル共同代表を務めるマルコ・バッラ氏はこう話す。
「だが、すべてのケースに当てはまるわけではないものの、海外での大規模な事業拡大を成功させるのは難しかった。その結果、コスト削減の機会と、国内での新業態開発にはるかに大きな重点が置かれるようになっている」
海外進出で困難に直面し、国内回帰
2012年以降、米国の小売り企業がからむ国際的なM&Aは減少した。トムソン・ロイターによると、その年には、11月までの10カ月間で406件、金額にして合計500億ドル相当のM&A案件が合意された。今年の同じ期間には、その数字が351件、金額ベースで390億ドルに減った。
その一方で、米国の小売り企業同士の国内M&Aが急増した。米国の小売り企業の間では、2014年に321件、金額にして450億ドル相当のM&A案件が合意され、2012年同期の274件、200億ドルから増加している。
海外M&Aの減少は、米国の小売り企業が海外事業拡大で困難に直面した後に起きた。家電量販店の米ベストバイが欧州進出に失敗したケースでは、2008年に英カーフォン・ウエアハウスとの合弁会社の株式50%を取得するのに11億ポンド払ったが、5年後にその半額以下で株式を売却する結果になった。