2‐1‐2
場所を変えると、吹く風も変わった。散った桜の芳香が風に混じっている。アカギとミキは、体育館と武道場を繋ぐ外階段に座っていた。
すると、アカギが立ち上がって叫ぶ。
「いったぁぁぁぁぁぁぁい!」
感情を吐き出すと落ち着く。誰から教わったわけでないが、アカギはそうやって感情のコントロール方法を実践していた。
うつむいていたミキが驚いて顔をあげる。そして、始業のチャイムが鳴る。彼女は感情なく呟いた。
「あ、午後の授業始まっちゃうね」
「今はどうでもいいだろう。大人が作った世界の授業と、ボクにミキが話したいことのどっちが大事なの?」
ミキより感情がない冷静すぎて、気色悪い少年アカギの本心だった。良く言えば、アカギの発言は大人びいている。
そのミキは同級生でなく、生まれていないはずの兄に問われた感じだった。彼女の目から自然と涙が溢れる。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
アカギはミキの頭をそっと自分の胸に寄せた。何も言葉が出てこなかったため、彼は過ぎ行く春の空を見上げていた。
しばらくして、ミキが彼の学生服から離れた。赤く腫れた目をこすりながら、彼女は言った。
「私、昨日から寝てないの。私一人だけ逃げて、アヤシ君を見捨てたから……」
「それはボクも同じだ。一人でミキを助ける力がないから、見捨てたんだよ。いいよ、ボクら生きているじゃないか」
「……なの。許してくれる?」
「何を?」と喉まで言いかけて、アカギは黙った。ミキは今何を話そうとしているのか。昨日、一人だけ逃げたことか。それとも今日、学校でアカギをぶったことか。またはベクトルの違う話だろうか。アカギは内心苦笑した。
(やっぱり、女の子はわからない。じゃあ、ボクは否定も肯定もしないか。)
「簡単には許さないよ。ミキの親でもそうするだろう。でも、昨日の件はおあいこ。これで今はいいかい?」
ミキは少し頷いた。またうつむき、そして口元を小さく動かした。
(やっぱりまだ好きになっちゃ駄目ですか?)
この言葉は、やはりアカギには届かなかった。ミキは一人で守る力があったら、アカギは助けると聞こえていた。純真無垢な彼女の心は、アカギの強さに惹かれていた。アカギはもう彼女のヒーローだった。だから、正義の味方には自分の罪を許して欲しかったのだ。
一方、アカギは近くにミキがいるのに、彼女の心が理解出来ずにもがいていた。ミキの気持ちを予想しては消してを繰り返した。
その隣りのミキは今、アカギが側にいてくれるだけでよかった。彼女の安心できる場所がここにあったのだ。
そして、終業のチャイムが鳴る。どちらからでもなく、2人はそれぞれの日常に戻った。
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