2‐1‐3
放課後、アカギは所属事務所に行き、子役の活動を辞退した。前々から決めかねて先延ばしにしていたことだ。
中学生という発展途上の時期を理解してくれた事務所の大人たちに、彼は多大な感謝をしている。
その帰り道、アカギは苦笑いを浮かべ歩く。
「理由が不純なんだけどね。ヒーロー部に入るなんてね」
そして地下鉄に乗り込み、『一番町駅』で降りた。入り組んだ小路を歩き、とあるビルの地下階段を下っていった。
ドアの横に、押しボタンがある。アカギは喉を鳴らして、そーと指を伸ばした。
――少し時間を戻す。アカギはあおば台の自宅マンションへ、学校が終わると帰宅した。両親は秋田へ出張中である。実際に仙京市あおば台にあるマンションに住んでいるのは、アカギとその実姉の二人きりだった。
この姉はすでに成人した社会人である。しかし、女子力を弟のアカギに奪われたのか、男の影もないガサツな女性だった。どうやら、今は出勤中らしく不在だ。
アカギはそんな姉がよく寝転ぶソファーに腰を下ろした。そして手の甲を自分のあごに当てて考え出した。ヒーローになるかについてである。
「ほぅ……悪くない……」
30代の青年のような貫禄ある低い呟き。アカギは人類最強ではないが、姉がよく読む漫画のキャラのように強くなりたいと思っている。因みに答えの出ない問題を考え込むのは、アカギのくせと言っていい。
そのとき、マンションのドアベルが鳴った。アカギはインターホンまで歩いていく。
「お世話様です。佐山急便です」
無表情のアカギは、カメラで制帽と青白ボーダーの制服配達員を見て、ロックを解除した。アカギが冷めた目をしているのは、どうせ姉がネット通販でまた『弟モノゲーム』を買ったからだと思ったからだ。
アカギの姉は、弟溺愛者である。3次元のアカギは元より、2次元の弟たちも愛している。特にパソコン用R18ゲームが多いようだ。
アカギはもう恥ずかしさをとうに克服していた。彼は溜め息をつき、ドアを開けて配達員から荷物を受け取った。
「あー、はいはい。アヤシヒロセの荷物ですよねー」
「はい? いえ、アヤシアカギ様宛のお届けものになります。あ、ここに直筆フルネームで印鑑入りで、お願いしますね」
「はい? ボクはゲーム頼んでないですよ?」
「いえ、個人情報うんぬんがありまして、中身までよく把握しておりません。しかし、送り主様は『仙京市教育委員会』様になります。……私も仕事なんですよ、お願いできますかね?」
配達員は荷物の中身について把握してないようだ。しかし、受領確認に必要らしい。
大人の配達員の仕事に報いるため、アカギは疑うことなくフルネームでサインし、印を押した。
(ははは、大人の仕事は大変ですねっと。)
配達員に紙を渡すと、アカギは箱を持ってドアを閉めた。
改めて視線を箱に落とす。仙京市教育委員会。確かにそう書かれている。姉もいないので、ためらうことなく荷物の箱を開けた。アカギの予想を上回る珍品が出てきた。思わず素のリアクションを彼はとる。
「ふぇっ、何これぇ?」
そう言うのも無理はない。赤いブレスレットタイプの携帯機器と変身ベルトのようなもの。まるでヒーローの道具だ。そして一通の手紙。
『超絶☆女装戦隊 男の娘★レンジャーレッド候補生当選のお知らせ』
アカギの顔が一瞬でレッドになった。急沸騰。目がぐるぐる回って、彼は貪るように書面を読んだ。そして、一呼吸して彼は叫んだ。
「あ、ありえなーい!」
1.貴方様が『ヒーロー候補生』であることを自覚し、家族・友人等にこのことを絶対口外しないでください。
2.当選通知に記載の住所(下記記載)へ、期日××年××月××日××時××分まで、時間厳守でお訪ねください。
3.当選通知の紙面・封筒は、他人に知られることなく、即破棄してください。
4.ヒーローになると、他人を守ることができ、バイト代が出ます。
5.ヒーローになると、レッスン日、戦闘、会議等による緊急召集があります。
超絶☆女装戦隊 男の娘★レンジャー 総司令 女川
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