2009年7月7日
テレビの生放送のスタジオとして、おそらく日本で一番有名だろう。
「スタジオアルタ」は東京・新宿の繁華街にある。JR新宿駅東口に立つファッションビルの7階。ここで撮られるフジテレビ系公開番組「笑っていいとも!」は、平日昼に生放送され、今年10月で28年目に入る。
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足を踏み入れて「狭さ」を実感した。最新のスタジオと比べてこぢんまりしている。しかし、「天井の高さ、広さ、客席の収容力。逆にちょうどいい規模です」。「笑っていいとも!」の7代目チーフプロデューサー、石井浩二さん(40)は言う。
フジテレビのスタジオの天井は高さ13メートルほどなのに対し、アルタは照明位置までわずか4メートルしかない。「天井が高いと声が逃げてしまう」と石井さん。客席の熱気が出演者に伝わりやすい仕組みだ。
広さは約250平方メートル。150人の客が肩を寄せ合って座る。客席から舞台までの距離も近い。普通のスタジオだと客席と出演者の間にカメラを動かす空間を設けているが、アルタは一番前の座席なら2、3歩踏み出すと出演者に手が届く。
舞台わきも狭い。その限られた場所で、各コーナーで使われる美術セットを入れ替えていく手際は見事だ。
「テレフォンショッキング」で司会のタモリが「蒸し暑いですね」と話しかけると、観客は「そーですね」と一斉に答える。コーナーの終わりが近づくと、「えーっ」。これらはもはや、観客と出演者の決まりごとだ。「テーマパークのアトラクションに参加するような感じなんでしょう」と石井さん。全国から集まる観客たちが、自らつくりだす心地よい空間なのだ。
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運営する「株式会社スタジオアルタ」は、フジテレビ、ニッポン放送、百貨店の三越の出資で80年春に設立された。スタジオアルタ技術部の梶敏樹参与によると、「笑っていいとも!」のほか、フジテレビのバラエティー「プレミアの巣窟(そうくつ)」やテレビ東京系の通販番組の収録にも使われている。
フジテレビは番組開始当時は、アルタと同じ新宿区内に本社があった。スタジオを外に求めたのは、紀伊国屋書店や歌舞伎町などで知られる「ごった煮文化」の街・新宿東口で発信したい思いがあったからだ。
新宿コマ劇場が昨年末に閉館するなど、周辺ではこのところ再開発が進んでいる。石井さんによると、タモリは最近、新宿の街を歩く若者を見て「どこに行くんだろう」とつぶやいたという。街の変わりようを不思議がってのことらしい。
「伝統」を壊さず、変わりゆく世相も意識する――。「笑っていいとも!」の番組づくりは、こんな両極を追い求めているそうだ。(岩本哲生)