中国が提唱する新たな国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が来年末までに設立される。アジアには国際金融機関として、すでにアジア開発銀行(ADB)がある。AIIBは法定資本金がADBの約6割で影響力を持つとみられる一方、組織や融資の中身は明らかになっていない。中国はまず理念を明確に示すべきだ。

 AIIBの設立覚書には中国やインド、東南アジアの各国など計21カ国が調印した。法定資本金は1千億ドル(約10兆8千億円)。出資比率は各国の経済規模をもとに今後話し合う。

 設立の背景には、国際金融秩序に対する中国のいらだちがある。米欧日などの影響力が強く、中国は経済発展に応じた発言権を持てていない。AIIBについては「4兆ドルに膨らんだ中国の外貨準備を活用し、融資を中国企業の海外進出につなげる」「融資先の国への中国の影響力を高める」といった意図が取りざたされている。

 アジアの新興国はインフラ整備のために膨大な資金を必要としている。ADBの試算では20年までに域内で8・3兆ドルが必要になる。ADBが域内に提供する資金は年間200億ドル程度で、とても賄えない。

 今月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議では、首脳宣言でインフラ投資の重要性をうたった。世界経済の成長を押し上げるのが目的だ。AIIBが活動する余地はあるものの、G20はAIIBには触れなかった。

 ADBはアジア太平洋地域から貧困をなくすことを目的とし、世界銀行とともに、融資対象の事業が環境破壊や人権侵害を招かないか、腐敗の温床にならないかなどを審査している。そうした面への配慮が不十分な融資は、新たな混乱を招くことになりかねないからだ。AIIBも融資の基準と理念を打ち出すべきだろう。

 AIIBに参加しない日本はADBの強化に取り組むべきだ。日本はADBの最大出資国であり総裁も出している。ADBは、民間の資金やノウハウを生かしてインフラ整備を進めることにも力を入れている。日本はもっと協力できるはずだ。

 ADBの融資能力を増すために、増資も欠かせない。09年に増資したばかりで、日本に次ぐ出資国の米国などは消極的だ。増資は中国の出資比率増大にもつながる。しかし、中国に対抗し、封じ込めようとするより、既存の国際金融秩序に中国を取り込む努力が大切ではないか。その意味でも増資を進め、域内の開発金融に資するべきだ。