「ビンジ・ウォッチング(binge-watching)」というのかな、今、或るTVシリーズにはまっていて、「はしご見」をしています。
見ているのはイギリスのITVが制作した『ミスター・セルフリッジ』
これはオックスフォード・ストリートにある有名百貨店、セルフリッジズを舞台にしたコスチューム・ドラマで、早い話が『ダウントン・アビー』のビジネス版みたいなものです。
まずこのTVドラマに描かれていない、背景の部分を少し説明します。
主人公のハリー・セルフリッジは、百貨店業界の人なら知らぬ人は居ない、数限りないイノベーションを小売業に持ち込んだ伝説の経営者です。
もともとシカゴ出身で、母子家庭(だったと思う)に育ったハリーは、マーシャル・フィールズというシカゴの卸売を専門とする乾物屋の荷受け係から身を起こし、マーシャル・フィールズが小売部門、つまり百貨店を始めたとき、その支配人を命ぜられました。
当時のシカゴはアメリカ中西部の農産物が集荷され、エリー運河を通じてニューヨークまで出荷される交通の要所であり、商業が発展するロケーションとしては、この上ない立地でした。
しかもアメリカは南北戦争を終え、「西へ、西へ」と西部開拓が進んでいたので、広大な土地を背景に、ビッグなスケールのビジネスを展開することで、成金たちの、これみよがしの消費のニーズを充足するという商売の切り口が、時宜を得ていたわけです。
そんなわけでマーシャル・フィールズのステート・ストリートにある本店は、いまでも(メイシーズの傘下になっていますが)全米最大級の百貨店として、その威容を誇っています。
さて、ここからが『ミスター・セルフリッジ』の話になるわけですが、そうやってアメリカ最大級の百貨店を軌道に乗せたハリー・セルフリッジがイギリスに旅行したとき、ビクトリア女王の時代に頂点に達した大英帝国の富の中心であるはずのロンドンに、巨大な規模の百貨店が無いことに気付きます。
そこでアメリカ流の百貨店をロンドンで開業すればウケるんじゃないか? と考えるわけです。
マーシャル・フィールズ百貨店の支配人では、結局、雇われの身。思う存分、自分の追求する「究極の百貨店」を実現することはできません。そこで自分の金でオックスフォード・ストリートのはずれに巨大な百貨店を建設するわけです。
見ているのはイギリスのITVが制作した『ミスター・セルフリッジ』
これはオックスフォード・ストリートにある有名百貨店、セルフリッジズを舞台にしたコスチューム・ドラマで、早い話が『ダウントン・アビー』のビジネス版みたいなものです。
まずこのTVドラマに描かれていない、背景の部分を少し説明します。
主人公のハリー・セルフリッジは、百貨店業界の人なら知らぬ人は居ない、数限りないイノベーションを小売業に持ち込んだ伝説の経営者です。
もともとシカゴ出身で、母子家庭(だったと思う)に育ったハリーは、マーシャル・フィールズというシカゴの卸売を専門とする乾物屋の荷受け係から身を起こし、マーシャル・フィールズが小売部門、つまり百貨店を始めたとき、その支配人を命ぜられました。
当時のシカゴはアメリカ中西部の農産物が集荷され、エリー運河を通じてニューヨークまで出荷される交通の要所であり、商業が発展するロケーションとしては、この上ない立地でした。
しかもアメリカは南北戦争を終え、「西へ、西へ」と西部開拓が進んでいたので、広大な土地を背景に、ビッグなスケールのビジネスを展開することで、成金たちの、これみよがしの消費のニーズを充足するという商売の切り口が、時宜を得ていたわけです。
そんなわけでマーシャル・フィールズのステート・ストリートにある本店は、いまでも(メイシーズの傘下になっていますが)全米最大級の百貨店として、その威容を誇っています。
さて、ここからが『ミスター・セルフリッジ』の話になるわけですが、そうやってアメリカ最大級の百貨店を軌道に乗せたハリー・セルフリッジがイギリスに旅行したとき、ビクトリア女王の時代に頂点に達した大英帝国の富の中心であるはずのロンドンに、巨大な規模の百貨店が無いことに気付きます。
そこでアメリカ流の百貨店をロンドンで開業すればウケるんじゃないか? と考えるわけです。
マーシャル・フィールズ百貨店の支配人では、結局、雇われの身。思う存分、自分の追求する「究極の百貨店」を実現することはできません。そこで自分の金でオックスフォード・ストリートのはずれに巨大な百貨店を建設するわけです。
当時のイギリスの小売事情は、『ハリー・ポッター』の中でハリーがダイアゴン横丁のオリバンターつえ店で、魔法のつえを購入するときの様子をイメージして頂くと良いと思います。
つまり商品は箱に入ったまま棚にうず高く収納されており、来店客は店の主人、ないしは売り子にこういうものを求めているというイメージを口頭で伝えるわけです。すると店の主人が棚から(これが良いだろう)と思う商品を取り出してきて、その商品を説明し、買わせるわけです。
言い換えれば、ウインドウ・ショッピングというか、「ひやかし」が出来ないシステムであり、来店客は常に(買うの? 買わないの?)というプレッシャーを主人から受けることになります。(現在のロンドンでも、例えばピカデリー・アーケードの老舗のお店の中には、そのような古風な戸棚に殆どの商品をしまい込んであるお店を見ることが出来ます)
『ミスター・セルフリッジ』の中で、ハリー・セルフリッジ(アメリカ人の俳優、ジェレミー・ピヴェン)がロンドンの商店の敵情視察をしているとき、売り子のアグネス・タウラー(アシュリング・ロフタス)に「ご婦人の手袋を買いたいのだけれど、どれがいいかね?」と訊きます。
アグネスがひとつひとつ手袋を取り出してきて見せていると、ハリー・セルフリッジが「棚にしまってある全部の手袋をカウンターの上にぶちまけて、その中から一番きれいな手袋を選んだ方が、楽しいだろう?」とサジェスチョンします。駆け出しの売り子だったアグネスが、顧客であるセルフリッジの言うとおりに片っ端から手袋をぶちまけて、その中から一組を選んで買い上げると、その様子を見ていたマネージャーが、その日のうちに、しきたりを守らなかったアグネスを解雇するわけです。
このエピソードからもわかる通り、当時のロンドンではショッピングは楽しむものという考え方はありませんでした。
ドラマの中でも、アメリカ人であるハリーが、性急にいろいろ革新的なことを行おうとすると、いちいち「心ある」イギリス人から「ここはイギリスだ。この国では、そういうやり方は、しないのだよ」とたしなめられます。
ハリー・セルフリッジは、商品をガラスのショーケースの中や上にきれいに陳列し、顧客が自らその商品を手に取り、実際に身に纏い、あれこれ思案し、「ひやかし」ただけで、買わずに帰ってもニコニコ顔で応対するという、我々がこんにち当たり前だと思っている百貨店の在り方を、考案した人なのです。
この他、ハリー・セルフリッジは宣伝のために有名人やセレブを店に呼び、サイン会をするとか、それまで奥にしまってあった化粧品と香水を、ひとつの売り場に集約し、しかもそれを百貨店の入り口に配置するなど、新しい工夫を次々に思いつきます。
それまで英国の貴婦人は昼間に一人で繁華街を歩くということはタブーだったのですが、百貨店に行くということが、レディとして、はしたなくない行為だということが確立されたのは、セルフリッジ百貨店の登場によるところが大きいです。
また『ミスター・セルフリッジ』には出てこないのですが、セルフリッジ百貨店は、社員寮を考案した最初の小売業者であり、また終身雇用制度の精神(=社内規定で、制度化されていたかは、僕は知りません)を打ち立てた企業でもあります。その他、店内に来店客向けのトイレを設置し、急病人のための救急室を設けました。
『ダウントン・アビー』同様、時代設定は大英帝国が頂点を極めた頃であり、そのファッションの絢爛さは、このTVシリーズのみどころのひとつだと思います。
それに加えて、ビジネス・ドラマなので創業の苦労話とか、商売をする上でのヒントとか、リーダーシップとか、人事面でのハリー・セルフリッジの哲学などが良く描かれていると思いました。
配役も豪華で、ハリー・セルフリッジの奥さん役を演じるフランシス・オコナーは『マンスフィールド・パーク』や『マダム・ボヴァリー』に主演した女性ですけど、本作でも苦悩する妻役を好演しています。
特にレディ・メイ・ロックスレーを演じるキャサリン・ケリーの存在感がすごいと思いました。
その他、目立った役者さんとしては財務部長ミスター・クラブを演じるロン・クック、レストラン・パームコートの給仕、ビクター・カリアーノを演じるトリスタン・グラヴェルなどが印象に残りました。
本作はシリーズ1(全10話)が2013年、シリーズ2(全10話)が2014年に放映されており、現在、シリーズ3を撮影中です。
つまり商品は箱に入ったまま棚にうず高く収納されており、来店客は店の主人、ないしは売り子にこういうものを求めているというイメージを口頭で伝えるわけです。すると店の主人が棚から(これが良いだろう)と思う商品を取り出してきて、その商品を説明し、買わせるわけです。
言い換えれば、ウインドウ・ショッピングというか、「ひやかし」が出来ないシステムであり、来店客は常に(買うの? 買わないの?)というプレッシャーを主人から受けることになります。(現在のロンドンでも、例えばピカデリー・アーケードの老舗のお店の中には、そのような古風な戸棚に殆どの商品をしまい込んであるお店を見ることが出来ます)
『ミスター・セルフリッジ』の中で、ハリー・セルフリッジ(アメリカ人の俳優、ジェレミー・ピヴェン)がロンドンの商店の敵情視察をしているとき、売り子のアグネス・タウラー(アシュリング・ロフタス)に「ご婦人の手袋を買いたいのだけれど、どれがいいかね?」と訊きます。
アグネスがひとつひとつ手袋を取り出してきて見せていると、ハリー・セルフリッジが「棚にしまってある全部の手袋をカウンターの上にぶちまけて、その中から一番きれいな手袋を選んだ方が、楽しいだろう?」とサジェスチョンします。駆け出しの売り子だったアグネスが、顧客であるセルフリッジの言うとおりに片っ端から手袋をぶちまけて、その中から一組を選んで買い上げると、その様子を見ていたマネージャーが、その日のうちに、しきたりを守らなかったアグネスを解雇するわけです。
このエピソードからもわかる通り、当時のロンドンではショッピングは楽しむものという考え方はありませんでした。
ドラマの中でも、アメリカ人であるハリーが、性急にいろいろ革新的なことを行おうとすると、いちいち「心ある」イギリス人から「ここはイギリスだ。この国では、そういうやり方は、しないのだよ」とたしなめられます。
ハリー・セルフリッジは、商品をガラスのショーケースの中や上にきれいに陳列し、顧客が自らその商品を手に取り、実際に身に纏い、あれこれ思案し、「ひやかし」ただけで、買わずに帰ってもニコニコ顔で応対するという、我々がこんにち当たり前だと思っている百貨店の在り方を、考案した人なのです。
この他、ハリー・セルフリッジは宣伝のために有名人やセレブを店に呼び、サイン会をするとか、それまで奥にしまってあった化粧品と香水を、ひとつの売り場に集約し、しかもそれを百貨店の入り口に配置するなど、新しい工夫を次々に思いつきます。
それまで英国の貴婦人は昼間に一人で繁華街を歩くということはタブーだったのですが、百貨店に行くということが、レディとして、はしたなくない行為だということが確立されたのは、セルフリッジ百貨店の登場によるところが大きいです。
また『ミスター・セルフリッジ』には出てこないのですが、セルフリッジ百貨店は、社員寮を考案した最初の小売業者であり、また終身雇用制度の精神(=社内規定で、制度化されていたかは、僕は知りません)を打ち立てた企業でもあります。その他、店内に来店客向けのトイレを設置し、急病人のための救急室を設けました。
『ダウントン・アビー』同様、時代設定は大英帝国が頂点を極めた頃であり、そのファッションの絢爛さは、このTVシリーズのみどころのひとつだと思います。
それに加えて、ビジネス・ドラマなので創業の苦労話とか、商売をする上でのヒントとか、リーダーシップとか、人事面でのハリー・セルフリッジの哲学などが良く描かれていると思いました。
配役も豪華で、ハリー・セルフリッジの奥さん役を演じるフランシス・オコナーは『マンスフィールド・パーク』や『マダム・ボヴァリー』に主演した女性ですけど、本作でも苦悩する妻役を好演しています。
特にレディ・メイ・ロックスレーを演じるキャサリン・ケリーの存在感がすごいと思いました。
その他、目立った役者さんとしては財務部長ミスター・クラブを演じるロン・クック、レストラン・パームコートの給仕、ビクター・カリアーノを演じるトリスタン・グラヴェルなどが印象に残りました。
本作はシリーズ1(全10話)が2013年、シリーズ2(全10話)が2014年に放映されており、現在、シリーズ3を撮影中です。