「世界でもっとも気持ち悪い男」に聞く 自分や身近なものをコンテンツ化して 世界に発信する方法(1)
2013年の年末、イギリスでもっとも権威ある新聞紙のひとつガーディアン紙の「世界でもっとも気持ち悪い男」に選ばれたのが、日本人ライターの地主恵亮さん(28歳)です。
勤めていた会社員を解雇された無職時代、愛読していたポータルサイト「デイリーポータルZ」に投稿を始め、「50年前のガイドブックに載っている店巡り」で奇跡のPV数を叩き出しました。それが書籍化されたこともあり、人気コンテンツを生み出すライターとして知られるようになりました。その地主さんがこのほど、新刊『妄想彼女 頭の中で作りあげた僕の恋人』(鉄人社)をリリース。
その原案となったのが、1人なのにまるで彼女と一緒にいるような様子を演出した「ひとりデート」です。これまで、「デキる会社員風」や「スローライフを送る成功者風」、「男らしいあやとり」などの思わず笑える1人演出を数々コンテンツ化してきた地主さん。自分や身近なものをコンテンツ化して世界に発信する方法を3回にわたって伺いたいと思います。
地主恵亮
ライター。1985年福岡生まれ。2009年より人気ポータルサイト「デイリーポータルZ」で執筆。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に『昔のグルメガイドで東京おのぼり観光』(アスペクト)がある。
"妄想上の彼女"を創出してコンテンツ化するまで
──「1人デート」の模様を撮影するようになったきっかけは?
真冬に、1人で福井に撮影に行ったのですが、寒いし、本当にさみしくて(笑)。たまたま街中にあった銅像とツーショットの写真を撮ったところ、おもしろい写真になったのがきっかけでした。それからキウイなどの植物って雌雄があるので、(異性の)植物とツーショットってことで写真を撮り始めたんです。だんだんネタがなくなってきて、今度は目に見えてわかりやすくしようと思い、女性のカツラといちゃいちゃし始めました(笑)。
──そのあたりから次第に"妄想上の彼女"を演出するようになったんですね。
そうですね。あとはコンテンツのネタとして、やはり3大欲求に関わるものがウケると思ったんです。睡眠欲、食欲、それから性欲にまつわる何か。性欲だと恋愛に関わりますが、自分のネタにした方が書きやすいですし、運よく僕がそんなにモテないという前提もあるし、これだ! と思いました。僕の企画のモットーは背伸びをしないということなんです。
──イギリスのガーディアン紙に掲載された経緯は?
直接取材は受けていませんが、2013年の暮れに、各国で拡散された僕の「1人デート」の記事がガーディアン紙の記者の目に留まって決定したようです。掲載については、知り合いの編集者から知らされました。その後、それを受けてCNNからもインタビューを受けました。
──本書は、「妄想デート」だけでなく、その撮影の裏側も見れる構成になっていますよね。
2部構成になっていて、上段は、妄想上の彼女と運命の出会いをして、デートしたり、ケンカしたりを経て、結婚して子供をもうけて幸せに暮らすまでのストーリーを小説にしています。下段は、その作り上げた妄想をいかに演出したかを解説しています。まったく役に立たない情報ですが(笑)。まさにゼロを100にしたようなものづくりでした。
「1人デート」写真は、通常ひとりで撮影しているんです。今回は撮影の裏側を撮るにあたり、セルフィー中の自分を三脚でカメラを設置して撮り、さらにそれを外側からプロのカメラマンが撮影するというハタから見たらすごく不思議な光景だったと思います(笑)。実は、誰かがいると表紙にあるようなデレデレした表情は恥ずかしくて出しにくいんですよ。
いつも1カット撮るごとに写真をチェックして、おもしろいものが撮れるとつい1人で笑ってしまいますね(笑)。つまり、やっててすごく楽しいんですよ。それがもしかしたら一番のモチベーションかもしれません。
──「1人デート」などを「デイリーポータルZ」で書くようになったきっかけは?
会社員時代、出版社のデジタル部門にいたのですが、部署ごとなくなる憂き目にあいまして。そのとき、会社にいても何もやることがなかったので、ひたすら自分のブログを書いてたんです。会社をクビになったというプロフィールを添えてブログのリンクを送ったら、ちょうどプロデューサーの方の目にとまって。
ブログの内容は、今に通じているんですが、ひとりで体を貼っていろいろな実験をする体験記事です。たとえば、「山頂で食べると何でもうまい」という企画で、実際に御岳山に鮨を持って行ったら、途中の長旅のせいで腐ってしまったというオチだったり(笑)。それが一番最初でしたね。
──「デイリーポータルZ」で有名になった経緯は?
2年間、毎週レギュラーで書かせていただけたので、たくさんのユーザーに名前を覚えてもらえたと思います。編集さんがたくさん書いた方が肩の力が抜けていい記事が書けると言ってくださって。それが良かったんだと思います。
もっとも評判の高かったコンテンツが、今回出版された「妄想彼女」の原型となった「1人デート」。それから、50年前のガイドブックに乗ってた店に行く企画で、こちらも書籍化されました。
──たった2年間で2本も書籍化できるようなヒット企画を生み出したわけですね。「妄想彼女」を出版する経緯については?
ツイッターのフォロワー数がけっこう増えていたのが大きかったですね。それを説得材料に、企画書の書き方すらよくわからなかったので、素直に編集者にフォーマットをもらって、それにあてはめてやりたいことを書いたら通ったという感じです。
──「妄想彼女」はビジュアルメインかと思いきや、2部構成なだけに、文字のボリュームも結構ありますよね。
やはり、お金を買って読む本はちゃんと作り込んだ方がいいという編集者の意向があって、僕もそれに賛成でした。原稿はすべて書き下ろしで、10万字ほど書きました。文章はまるでボレロのような同じリズムにあえてこだわりました。写真も過去に撮ったものの流用ではなく、7割ぐらい撮りおろしで、しかも全ページカラーです。
書くことで自身のキャラクターを確立する方法
──では、ウェブの記事を書くときに心がけていることは?
ネットだと、若干くどいぐらいじゃないとみんな読んでくれないので、そこは意識してますね。大切なこと、強調したいことは何度も書くという癖がしみついていて、本にもそれが表れていると思います。その手法については、誰かがツイッターで「地主はずっと同じことを書いてる」とつぶやいてたので、実は読んでいる人にバレているみたいですが(笑)。
たとえば、「1人デート」でいえば、「1人でデートできる」「デートは1人で可能だ」という感じで、言い方を変えて何度も言い続けています。「地主=1人デート発案者」という設定づけもできますし、そもそも写真も写真でくどいので、バランスをとっているところもあるんです(笑)。
──ご自身で本を出版したいという気持ちは強かったのですか?
祖母が喜ぶというのはありますね(笑)。基本的にはやりたいことを突き詰めていった結果、出版に至ったというかんじです。
──地主さんは美大出身なんですよね。やはり作品をアウトプットするのに慣れている部分もあるのでしょうか。
そうかもしれません。電通に入社した同級生が、「もっと自分のやりたいことをやりたい!」と言い出して海外に出たのを知って、「電通に入ったらそこでゴールじゃないの!?」と思って関心していまいますけど。僕は僕なりにオリジナルのものをつくりたいという気持ちは強かったと思います。
(庄司真美)