「貧困と東大」

 大手メーカーに勤める朝倉彰洋さん(25)は東大生だった2009年、そんなテーマで調査した。

 東大が行った「学生生活実態調査」では、東大生の親の年収は「950万円以上」が過半数を占めている一方、「どれくらいの貧困層が広がっているのか、知りたかった」。自分が入居していた学生寮は経済的な困難を抱えた学生が多く、アンケートを配ってみた。49人の回答者のうち、親の年収が300万円未満の学生が15人いた。

 「貧困層でも支援制度の存在をもっと広く知ってもらえれば、家庭の経済状況に関係なく東大に進学できるはずだ」

 朝倉さん自身、母子家庭で育った。母親には「勉強にかかるお金は出してあげる」と言われていたが、愛知県から東京への進学を伝えると一転、「行かせるお金はない」と反対された。国立大学の授業料(標準額)も、1975年度の3万6千円が、いまは約15倍の53万5800円かかる。

 そもそも中学時代は大学進学も考えていなかった。高校の先生の助言を受けながら、授業料の免除を手にした。給付型奨学金も得て大学院にも進んだ。「制度を教えてくれた中学や高校の先生、一緒に東大を目指した仲間、どれか一つでも欠けていたら進学できなかった。自分は運が良かった」

 愛知県春日井市のショッピングセンターの一角。週に1度、約2時間、大学生のボランティアが、中学生たちにほぼマンツーマンで教える。生徒は生活保護世帯や母子家庭の子ら約15人だ。

 その一人、中学3年の女子生徒(14)も母子家庭で育った。塾に通うのはあきらめていたが、教室に通いながら、商業高校への進学をめざす。卒業したら、すぐに就職するつもりだ。「大学に行くお金はないし、就職したら母が楽になるかな、と思って」