脚本・虚淵玄(ニトロプラス)インタビュー:その1 その2 その3
11月15日より、封切りされた劇場オリジナル作品「楽園追放」。フル3DCGでの制作が大きな注目を集めているが、「魔法少女まどか☆マギカ」や「仮面ライダー鎧武/ガイム」などで知られる脚本家の虚淵玄(ニトロプラス)が脚本として参加していることも重要なトピックのひとつだ。今回は、虚淵氏にインタビューを行い、「楽園追放」の制作秘話、ストーリーや設定に秘められた想いなどをうかがった。
――まずは、本作に参加されることになった経緯を教えていただけますか?
虚淵:5~6年前、東映アニメーションさんがCGの技術を研究していて、その技術を用いて1本アニメーションを作れないだろうかというお話があったんです。当時は東映アニメーションさんが「プリキュア」シリーズのエンディングにCGを使ったことで話題になっていたころで、技術的な実験としていただいたお話でした。だから、実は「魔法少女まどか☆マギカ」よりも先に動いていた企画なんですよ。
当時は今ほど技術が発達しておらず、初期の構想では人物の表情はセルアニメをテクスチャとして貼り付けて表現する予定でした。結果論としては制作が長引いたおかげで、現在の高水準技術で作ってもらえることになったので幸運でしたね。
――東映アニメーションさんからは、企画のどの段階で虚淵さんにお話があったんですか?
虚淵:こちらで企画からまるごと作ってもらいたい、という形でした。企画がある程度固まった段階で、実際の脚本は監督が決まってから書きたかったので、一度企画を保留にしてもらったんです。監督が水島さんに決まったのは「まどか」の放送が終わった後でしたね。だから、かなり長い間寝かせてあった企画なんです。
――脇役に至るまで、キャスティングがかなり豪華ですが、これは虚淵さんからの要望ですか?
虚淵:いえ、水島さんからの提案ですね。最初に水島さんにお会いして決めたことが「明るい話にしよう」ということとキャスティングなんです。企画書を読んでもらって、アンジェラは釘宮(理恵)さんが、ディンゴは三木(眞一郎)さんがいいよね、と決めてから脚本を執筆したので、ほとんど当て書き(出演者の印象や技量に合わせて脚本を書くこと)でしたね。キャラクターの年齢イメージなども、この段階で決まっています。
本作の本読み(脚本を検討するスタッフ会議)はおもしろかったですよ。キャラクターデザインの齋藤将嗣さんやスカルプチャーデザインの浅井真紀さんたちが同席していて、齋藤さんがその場で描いたラフデザインを、ノートパソコンを持ち込んだ浅井さんが即座に立体として成立するかどうか検証してしまう(笑)。これは、本作が実験作だったからできたことでしょうね。通常のアニメ製作では段取りがカッチリしているので。本作は「完成したら公開しましょう」くらいのスタンスで、いつ公開予定で予算がいくら、というビジネス的な制約がなかった。そうした稀有な作品に参加できたことは、とても貴重な体験でしたね。
――では、物語の内容についても踏み込んでお話を聞かせていただきたいと思います。本作に託したテーマとはどのようなものなんでしょうか?
虚淵:「多様性」と「自由の在処(ありか)」ということになるでしょうか。人の定義そのものが曖昧になった世界でのストーリーを描いてみたかったんです。これはSFだからこそできるテーマなのではないかと思っています。
――本作は徹底管理された電脳世界・ディーヴァの捜査官であるアンジェラ・バルザックが、ある理由から組織に反旗を翻していくという筋書きです。「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズや「翠星のガルガンティア」、ある側面では「魔法少女まどか☆マギカ」もそうですが、近年の虚淵さんの昨今ではディストピア(管理社会)的なものに対するレジスタンスが描かれていることが多いように感じます。何か特別な理由があるんでしょうか?
虚淵:どうなんでしょう。サイバーパンク的な作品から影響を受けた世代として、そうしたテーマには慣れ親しんでいるので、好きな空気感なんでしょうね。管理社会というのは本来は“いいもの”であるはずなんです。しかし、そんな中にあっても不満を感じる、というのが人間の本質なのかなと思います。そうした二律背反のドラマがおもしろいんですよ。
――虚淵さんの作品では、登場キャラクターが無残な死を遂げることもありますが、本作では人が1人も死なないことに逆に驚かされました。
虚淵:誰も死なせる必要がなかっただけですね。本作の企画は、最初に提出した、長年温めていた戦争モノが重たすぎてNGが出てしまったので、次は明るめにということで、イチから東映アニメーションさんのために作った2本目だったんです。舞台が戦場でもなければ、そうそう人が死ぬことはないですよ(笑)。
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