ヴェイピング(電子タバコ)のよくある誤解と業界人の常識5つ

2014.11.24 21:00
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この業界に入ったのは1年ぐらい前、友だち2人に田舎のコロラド州ルイスビルでヴェイプショップ(後のeジュース製造会社)手伝ってくれって頼まれたのがきっかけです。業界のわれわれから見たら、ヴェイピングはすごく健康にいい面もあるのに、一般の風当たりは強いですね。FDAや自治体の規制も厳しくなってきたので、ここら辺で声をあげないとなって思い筆をとりました。

*編集部注: 本稿はヴェイプ業界の中の人のゲスト寄稿です。そこは割り引いて読まなきゃいけませんけど、記事内容は的を得ていると判断したため掲載に踏み切りました。電子タバコとヴェイピングに対する反論も沢山あります。こちら(日本語)こちら(英語)で併せてお読みください。


1. 量販電子タバコとは似て非なるもの


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Photo credit: World News Network


「電子タバコ」と聞いて大体の人が想像するのは、この一番左の量販電子タバコ従来の煙草(アナログたばこ)みたいなかたちをしていて、アメリカではガソリンスタンドで売ってて、一番人気のブランド2つはたばこ会社が作ってます(Vuzeはインペリアル・タバコ、BluはR.J.レイノルズ)。 リキッド充填済で販売されていて、空になると新しいカートリッジに交換が必要。フレーバーの種類は少なく、一般にはシンプル(かつヘルシー?)な煙草の代用品と思われています。

でも売上高こそ立派だけれど、ヴェイピングで煙草をやめた人はまず吸いません。うちなんて店に置いてすらいない。というか、ヴェイプショップはどこもそう。扱っているのはガソリンスタンドとコンビニぐらいですね。

では専門のヴェイプショップに置いてるのは何かというと、この写真の真ん中(通称APV=Advanced Personal Vaporizer、Vape Pen)と右(Vape Mod)のやつ。

APVは、Innokinなど中国メーカーの製品が主力で、電子部品装備で電力を加減します。ヴェイパー(蒸気)の量はそこそこで、値段は100ドル(11700円)未満

右のモッド(Mod)は、Surefireなどの米国メーカーとギリシャ、フィリピンの小さな会社の製品が主力で、リビルダブルアトマイザー(RBA)っていうのを自分でコイル巻いて組み立てる式。結構な量のヴェイパー(蒸気)ができます。値段はかなりお高い

ユーザーは普通、左の量販品から入って、満足のいく爆煙求めて真ん中に移動し(左の煙草モドキはニコチンすごく高くて煙は全然出ませんからね)、 幅広いフレーバーとニコチン減量(後述)求めて右に落ち着くというパターンですね。モッドとか「オープンシステム」の吸引器の売れ行きが伸び、使い捨てタバコが急に落ち込んで、使い捨て製造元のたばこ会社が「モッド逝ってよし」と思ってるのは、まあ、そういう次第なのです。

この左と右の違いは重要です。こんなに天と地ほども違うのに、法律つくる政治家もマスコミもこの違いが全然わかってないで話をしてるので。よく「あれって中に何入ってるか誰にもわからないしね」と言われるたびに、それなんの話だよって思ってしまいますよ。なぜなら…


2. eリキッドの成分は企業秘密でもなんでもない


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Photo credit: Russell Mills


因みに会社の僕の肩書きは「ジュースマスター・ジェネラル」です。カッコいいでしょ、ね。自分で勝手につけたんです。担当は卸売業者の1社が出荷するeリキッドを1本1本みる仕事です。95%のものは自分で手づくりしてます。調合成分は4つだけ。別に月面から拾ってきた得体の知れない成分とかは入ってません。

eリキッドの調合は、主成分のベジタブルグリセリン(VG: vegetable glycerin、植物性グリセリン)をベースに始めます。うちの会社(+よそのメーカーの大多数)ではオーガニック認証のベジタブルグリセリン(あんまりフレーバーはないけどヴェイパーは沢山出る)を使ってますね。

次に入るのがプロピレン・グリコール(PG: propylene glycol)です。ヴェイパー危ない危ないと言う人たちがよく「不凍液の主成分」と言ってるのがこれ。だけど、この主張は間違いで、わざと量販の電子タバコに含まれてるジエチレン・グリコールとごっちゃにして言ってるだけ。僕は不凍液の成分なんて配合していません。

プロピレン・グリコール(PG)はアルブテロール(ぜんそく吸入器)の主成分というぐらいで、蒸気を吸ってもまったく安全です。PGはVGより薄く、フレーバーの乗りが良いです。そのため次なる成分、香味料は通常このPGに含ませます。

香味料(flavoring)は食用グレードの成分で、天然ものと人工ものがあり、組み合わせは無限、ジュースメイカーのイマジネーションの数だけあると言っていいでしょう。

「これって中に何入ってるかわかんないもんね」と言う人は何をもってそう言ってるのか本当に不思議です。僕ら現場の人間は完璧にわかってるし、蒸発するときに出る毒性(無視していいぐらいの微量です)のことも把握してるし、それを裏付ける研究も沢山出ている(たとえばこれ)ので、ちゃんと調べればわかることなのに。

さて、最後の成分は薬用グレードのニコチンです。これはどのジュース製造元でも、いろんな濃度のものを作ってます。とんでもなく強いもの(ミリリットルあたり36mgなんてのもある。それだとラッキーストライクをフィルターとって吸うぐらいの強さ) からまったく入ってないものまであります。そう、ゼロ。「ニコチンゼロのたばこなんて売れるの?」―それが結構売れるんですよ。(日本は薬事法上、販売が許されているのはニコチンゼロのだけです)


3. 蒸気の多くはニコチンゼロかほぼゼロ


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嘘だと思われると困るので、我が社の売上をちょっと紹介しますね。うちではニコチン濃度が超微量(6mg/ml)からゼロのeリキッドの方が中~強濃度(12mg/ml以上)のものよりよく売れてます、大体2対1ぐらいの差で。eリキッド製造元でニコチンゼロのリキッド作ってない会社は文字通りない(それ専門の会社も最低1社ある)です。需要のないところに供給はないわけでして、やっぱり売れるんだと思いますよ。僕自身はヴェイピング始める2年前にもうタバコはやめてましたから、今は毎日ゼロニコチンのリキッド使ってます。

ニコチン控えめなのが売れる理由ははっきりしてます。

大体のユーザーは、アナログタバコ(燃焼たばこ)まだ抜け切れてないうちはニコチン濃度高いのから始めます。で、ビギナー卒業して、もっとヴェイパー(蒸気)が出る吸入器使い始めると、「あれ? そんなにニコチン濃度高くなくても満足できるぞ」ってなって、そのうち「ニコチンがあんまり強いとeリキッドはフレーバーが台無しになるんだな」って気づいて、もっと「ステップダウン」(ニコチン濃度を下げること)したくなるんです。要するに、ニコチンは使用量を控えるほど、リキッドは風味が良くなるんですね。マスコミで評論家がなんと言おうと、大人も風味はよいものを好むということなんでしょう。

ここで言ってるのは、スイカ味とかブルーベリー味とかの「キッズ向け」フレーバーの話じゃないですよ。ブルーベリーが好みなら、いいのひとつあるけど。うちで扱ってるブレンドには、すごく複雑な味わい(オートミール+ラム酒+レーズン+アニス)のものもあるし、スーッと爽快でスウィートタルトなメンソールブレンドとほぼ区別つかないのもあります(Heisenbergという銘柄)。お子様向けは扱ってません。

キッズを「ターゲットにしてる」っていう報道は何度も何度もされてますよね。甘ったるいフレーバーでキッズをおびき寄せて、たばこの入り口にしてるっていう。入り口もなにも、僕ら的にはヴェイパーの方が体にはいいんですけどね。


4. 燃焼たばこの煙より遥かに無害


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電子タバコの煙(燃やしてないので厳密にはヴェイパー、蒸気、霧)というと、普通は「完全に無害」という話か「タバコ、山火事、核爆発全部足したより害がある」という全く正反対な話をどっかで見聞きしてると思います。「研究がまだ不十分」というのも。

この点についてはもうチャチャッとリンク貼って済ませてしまいますね。リンク先の研究論文を読んでる暇がない人のために要点も抜粋しておきます:

2012年ギリシャの論文「電子タバコが心筋機能に与える急性の影響: 通常の煙草との比較」: 「燃焼がなく、化学成分も異なるため、有害な化学物質の生成・吸収は少ない。[...]電子タバコは紙巻き煙草より安全な代用品かもしれない」

2012年の調査論文「電子タバコのヴェイパー中の一部発がん性物質と毒性物質」: 「調査では電子タバコのヴェイパーには毒性物質が若干含まれていることがわかった。 毒性物質の含有量は煙草の煙のそれより9~450倍低く、多くの場合、参照製品の含有量並みの微量であった。[...]調査では、紙巻き煙草を電子タバコで代用すると、たばこ特有の一部毒性物質との接触が大幅に下がることが確認された。禁煙したくない喫煙者が害を減らす戦略として電子タバコを使うことに関しては、さらなる研究を行う価値はある」

2012年の研究論文「eシガレットのヴェイパーとタバコの煙の影響を室内空気で比較」: 「計測した副産物を比べると、電子タバコは紙巻き煙草に比べ接触がとても少ない。分析した化合物を見る限り、電子タバコの煙(蒸気)が人体に与えるリスクは特にないものと思われる」

結構研究はされてるんです。リンク貼ろうと思えばもっと貼れます。ここで注目してもらいたいのは一番最後のですね。「セカンドハンド」ヴェイパーのことに触れてます(受動喫煙ならぬ受動喫蒸気ですかね)。今、いろいろ規制の動きがあって、その先陣を切る人たちの間では「喫煙席に制限すべき、ヴェイパーは安全じゃないんだから」という議論もなされています。でも業界全体の認識はそれとは真逆です。

5. 禁煙補助に「なる」


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業界が成長するにつれ、電子タバコが禁煙に効果がある「かもしれない」という証拠が「若干」出てきて、それは一流雑誌も(表現は渋々ながら)認めざるをえない空気になってきています。僕らは以前からわかってたことですけどね。裏付けになる引用をまた並べてみますよ。

「被検者の大多数(72%)はたばこをやめた元スモーカーで、76%は電子タバコを毎日常用していた。実験開始前は平均して電子タバコを3ヶ月間使用し、1日150回吐き、ニコチン濃度16 mg/mlの交換リキッドを使用していた。開始前にヴェイパーを毎日常用していた人は1ヶ月経ってもヴェイパーを毎日常用していて(98%)、1年経っても毎日常用している人は89%にのぼった。[...] 電子タバコ常用者は1日に吐く回数も試験開始前と1年後でほとんど変わりはなく、1ヶ月後に喫煙の習慣がぶり返した人は6%、1年後にぶり返した人は6%だった」

「電子タバコの現ユーザー、元ユーザー、一度も試したことのない人を対象に行った大規模な国際調査では、喫煙欲求と禁断症状を和らげるのに電子タバコが役立ったと答えた人は全体の72%にのぼった。92%の人は電子タバコを吸ってる時の方がタバコの量が減ると答え、電子タバコを吸ってる時に紙巻き煙草を吸いたい欲求に駆られたと答えた人はたったの10%にとどまった。また、調査対象のうち元スモーカーは2000人以上にのぼるが、うち96%の人は電子タバコがたばこをやめるのに役立ったと答えた」

「たばこをやめる意志のないスモーカーも、電子タバコ(ニコチン入りでもニコチン抜きでも)の使用により、たばこの量は減り、たばこの禁断症状に耐える力が生まれ、特に大きな副作用はなかった」

「ニコチンパットやニコチンガムのような従来のニコチン代替療法(一部製薬会社の頼みの綱)の成功率は本当に無視できるレベルだ。それと比べてみれば、反対世論の出元は容易に察しがつく。アメリカ食品医薬品局(FDA)―国民の健康の保護者であるべき機関―は今、われわれの業界の統制を大手たばこ会社の手に委ね、当社のような零細を葬り去る法規制を推進しているが、これもつまりはそういうことなのかもしれない」

国がそんなことしてる間に、国民の健康の真の保護者が誰かは自ずから見えてきています。ここで貼ったリンクの多くは、「電子タバコ研究論文のまとめ」にも掲載されてます。これは新しい論文を定期的に追加してるデータベースなんですが、効果を裏付ける証拠は増えるばかりです。これを見ると、マスコミが伝えているのは一方の言い分だけだということがわかると思います。


*本稿はListverse初出記事を許可を得て短縮し掲載しました。全文はこちら

Mike Floorwalker - Listverse - Gizmodo US[原文
(satomi)

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