キャッチーで心が弾む楽曲を発表し、一躍注目を集めている音楽プロデューサー・DJ、tofubeats(23)がメジャーデビューアルバム「First Album」を発表した。1990年代のJ―POPを現代の感覚で刷新したような、懐かしくも新しい音楽の秘密を聞いた。
tofubeatsのバックグラウンドはしばしば「90年代」と「郊外」というキーワードで語られる。90年に生まれ、「神戸市の外れのニュータウン」で少年期を過ごした。日々通ったのは、どこの郊外にでもあるレンタルビデオ店や中古CD店。その一見、無個性でありふれた環境が、ユニークな音楽センスを磨いたという。
「僕の実家のあたりって本当に何もないところなんです。だから中学1年生から毎日、ロードサイドにあるレンタルビデオ店や中古CD店に行って、CDを手に入れて帰るという生活でした。高校生になったらバイトを始めたので買う量も増えた」
「『ゲオ』とか『ブックオフ』とかに行くと、一番たくさんあって安いCDって90年代のJ―POPなんです。学生の限りあるお金でなるべくたくさん音楽を聴こうと思うと、自然にJ―POPになった」
CD生産枚数が日本で過去最高の4億5717万枚を記録したのが98年。CDバブルと言われた90年代のCDは大量に中古市場に出回り、千円もあれば5枚が買えた。そうした環境で浴びるように聴き、吸収した音楽が現在の素地を作った。
「『私がオバさんになっても』(92年)の森高千里さんや藤井隆さんら、90年代に一世を風靡した方々への思い入れは強いです。影響を受けましたね。DJのテイ・トウワさんや、渋谷系も好き。ほかには宇多田ヒカルさんとか。今回のアルバム『First Album』のタイトルのフォントって、宇多田さんのアルバム『First Love』(99年)に似てるんですよ。『First Love』の発売は僕が9歳の時。すごく好きなアルバムでずっと聴いていました。小さい時に何となく刷り込みで聞いていたんだけど、(後になって)中古CDで聴き返してすごいって分かった」
「あの時代はスタジオで弦(楽器)やホーン(管楽器)を生で録ってるし、今からしたらありえないことをしている。マスタリング(原盤製作作業)も海外に頼んでいて、音から景気の良さが伝わってくる。僕みたいに家で作っているミュージシャンにしたら、『すごいな』と思う。あの頃の音楽を再現したいわけではないんですけど。今好きな音楽と昔好きだった音楽があって、どのように一緒に並べるかというのがテーマ」
確かに、森高千里を迎えた「Don’t Stop The Music」や藤井隆が歌う「ディスコの神様」などの先行シングルを聴くと、90年代の面影がのぞく。覚えやすいメロディーがあり、全体を明るく、華やかなムードが覆う。アルバム「First Album」には他に、パラパラ、ヒップホップと多彩な曲を収めた。BONNIE PINKやアイドルグループ「東京女子流」の新井ひとみらゲストも様々だ。
「同じような曲を入れないように意識しました。いろいろな音楽を聴いてほしい。多才って言われることもあるんですけど、あまり多才ではないと自分では思ってます。限られた好きなものをいろいろな方法でやっているイメージです。それから、あくまでJ―POPなのでいろんな人に届くようにしたい」
収録曲「♯eyezonu」の「WiFiあったらどこでも良い 078 神戸 急がないでOK」といった歌詞からは、本人の創作姿勢が伝わってくる。音楽シーンの「中央」という概念や、作曲のプロ・アマといった区別にとらわれない。インターネット世代ならではのフラットで柔らかな感性がのぞく。
「DJをやっているので、もちろん新譜はよく聴きますが、自分の周りの友達が作っているのもいいなと思います。メジャーデビューはしていないけれど、自分で曲を作っている人。そういう人たちの集合体がインターネット上にあるんです。同級生に音楽を作っている友達はいなかったので、インターネットでそういう人たちと知り合って、どんどん意見交換して、うまくなったというのも僕のバックボーンにはある」
「中学2年の頃、自分でも音楽をやろうとベースを買ってもらったけど、すぐに飽きてしまったんです。そんなとき、パソコンでなら一人で音楽を作れるというのをインターネットで知って、それでサンプラーっていう機材を買ってもらいました。だからコピーバンドは一切やったことなくて、最初からオリジナル曲。高校生になるとアルバイトしたりCDを売ったりしてもっといい機材にしてパソコンも買い替えて、とどんどん(フレームを)大きくした感じです」
「最初に作ったのはヒップホップの暗い曲。1週間に何曲も作って、それをネットに上げてました」
高校3年生になると、あるメジャーレーベルから声がかかる。アルバイトで楽曲を提供するようになり、小泉今日子やYUKI、ももいろクローバーらのリミックスも手掛けた。
「契約が終わったらやめて就職しようと思ってました。大学在学中のメジャーデビューに失敗したので、普通に就職しようと思って内定まで取っていたんです。でも去年の10月にワーナーミュージック・ジャパンからメジャーデビューが決まって。去年の春に大学を卒業していたので、新卒でワーナーに入った感じ」
「住み慣れた神戸を離れるつもりはないです。東京に出てくる理由があんまり分からないんです。地元でゆっくりやるのが自分に向いている。聞いている人に楽しい気分になってもらわなきゃいけないし。音楽なんてデータでやりとりできるので」
「東京で(ファンだった)森高千里やBONNIE PINKに会えても、後であれは全部夢だったんだ、と思うようにしてます。あまり実感を持たないように」
きらびやかな世界はあくまでも非現実。だからこそ、その音楽には幻へのあこがれが切なく漂っている。
(聞き手は文化部 関優子)
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