キム・ギドク&新鋭イ・ジュヒョン監督、家族ドラマの普遍性で朝鮮半島の南北問題に切り込む
韓国の鬼才キム・ギドクが脚本と製作を手がけ、新鋭イ・ジュヒョン監督にメガホンを託した「レッド・ファミリー」が第26回東京国際映画祭コンペティション部門で正式上映され、観客賞を受賞した。映画祭にあわせ来日したキム・ギドクとイ監督が、本作への思い入れやこだわりを語ってくれた。
隣同士に暮らす北朝鮮スパイの疑似家族と韓国の一般家族の交流をユーモラスに描き、朝鮮半島の現況を新しい形で提示した家族のドラマ。25日の映画祭最終日には、一般客からの投票による「観客賞」を戴冠し、イ・ジュヒョン監督が歓喜の舞台挨拶を行った。
これまでも、朝鮮半島の南北問題に独自の視点で切り込んできたキム・ギドクは、「やはり南北分断の現実に対する残念な気持ちが根底にあり、漢民族と“恨”(韓国語で恨みや悲しみの意)民族という2つの言葉をかけた同じテーマを題材にしている。ただし今回は、それをイデオロギーではなく家族を据えて表現しようと思った。イデオロギーを前に押し出してしまうと、自分たちの主張になってしまう。誰もがもっている家族というものであれば、観客は題材に接しやすいし理解もしやすい。韓国の大統領であれ、北朝鮮のキム・ジョンナムであれ、家族がいるわけだから」と狙いを語った。
そんな思い入れの深い本作に新人のイ・ジュヒョン監督を抜てきした理由は、「以前、私が製作した映画でスタッフとして働いてくれた経験もあり、私が脚本と製作総指揮を務めた『プンサンケ』で監督を務めたチョン・ジェホンが彼を推薦してくれた。現場での経験はさほど多くなかったけれど、彼が作ったドキュメンタリーとアニメーションを見て、人間の喜怒哀楽といった情緒をきちんと感じ取れる人だなという印象を受けた。今回の胸の痛くなるようなストーリーも温かい視線でうまく描いてくれるのではと思い、シナリオを託した」と経緯を説明。そして、「ひとたびシナリオを渡したら、その後のことはすべて監督にまかせる。現場に行くなどあれこれ干渉はしない。完成した映画を見てみると、私がシナリオに書いた意図や感情をうまく表現してくれていた。私はアイレベルのカメラワークを多用するけれど、イ監督は色々なショットを使って画面に広い幅を与えていた。新人監督としての自信を感じたし、とても肯定的に受け取っている」と納得の様子だった。
これにはイ監督も安堵の表情を浮かべ、「自分はまだまだ未熟者なので、撮影中もあれこれ考えるがゆえに、本質を見失いそうになった時もあった。そんな時、ギドク監督から映画を作る上で大切なのは幹から派生している枝ではなく、木の根幹が重要なんだと教わった」と最敬礼。庭の柵ひとつで隔たれた北朝鮮スパイ家族と韓国のごく平凡な家族の関係性を巧みに表現し、「最も重要視したのはメッセージ性。北と南の2つの家族が、北朝鮮と韓国のように目に見えない線で分かれて見えるよう表現したかった。北と南の家族への照明の当て方も変え、南はケンカしてもいつも家族が一緒にいて、北は家族が一緒にいてもひとりひとりがバラバラな感じを演出した」とこだわりを明かした。
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