ビジネスでつまずく前に読む「民法」の基礎知識
【第4回】 2014年11月5日 西口竜司 [弁護士]

民法改正に備えて、
企業はなにを準備すればよいか

 本連載ではこれまで、民法改正のポイントについてお話をさせていただきましたが、やっと本題に入らせていただきます。現状では推測ではありますが、最速で民法改正が平成27年度(2015年度)に、また、施行時期が平成28年度(2016年度)以降ということになります。

 企業としても悠長に構えているわけにはいかない状況にあります。特に契約書関係の巻き直し等も必要になってきますので、今回は改正に備えて企業はどのような準備をすればよいかについて、個別にお話をさせていただきたいと思います。

(1)消滅時効

 消滅時効の期間が「権利を行使できることを知ったときから5年経過」するという内容の改正が行われます。

 商事債権につきましては、以前から時効期間は5年でしたので、企業としてそれほど関係のないようにも思われます。

 ただし、債権譲渡を受けているようなケースでは、時効期間は元の債権を基準にしますので、10年間猶予があると思っていたものが5年間に短縮されることになります。

 手元の債権がどのようなものかを確認し、必要があれば時効中断のための措置を講じておく必要が出てきます。その際、改正法においても明記されていますが、協議合意による時効完成猶予の制度を用いること等が考えられます。

(2)法定利率

 一般論としては、当事者間の約定で利率を決定しています。ですので、格別対応をする必要がないと考えます。ただし、契約書に明記していない場合、法定利率が適用されますので、債権回収といった点では従来よりも不利になってしまうことになります。そこで、契約書等を作成されていない場合、利率を明示することが考えられます。

(3)契約の解除等

 以前述べたように、今回の民法改正では契約の解除についてのルールが大きく変更されます。履行不能の場合、債務不履行について債務者の帰責事由がなくても契約解除が可能になりました。これと併せて危険負担に関する規定である534条の規定が削除されることになりました。

 一見実務上大きな改正であるようにも見えますが、実際上は債権者である企業にとっては契約書に記載されていることとほとんど異ならない内容のものですのでその影響は大きくないものと考えられます。ただし、一般消費者の立場からみれば契約の解除が容易になるという点では大きな意義があるもの事実です。

(4)債権者代位権

 債権者代位権についても判例法理を明文化するためにさまざまな内容の改正が行われます。企業としては、1点注意すべき事項があります。

 これまでの判例法理によれば、債権者代位権を行使すれば、債務者による債権の取立権限や第三債務者による弁済の制限がなされていました。

 改正法では、このような制限がなくなり、債権者による債権回収が難しくなってしまいます。その結果、債権者の立場に立っている企業(金融機関が多いと思われます)にとっては、債権回収に先立って仮差押え等の手段を講じることが必要になってきました。債権回収という点で留意すべき必要が生じることになります。

(5)連帯債務、連帯債権

 まず、連帯債務の規定の中で大きな改正点として、これまでは「絶対効(第三者にも効力が生じる)」とされていた履行の請求について「相対効(当事者間のみに効力が生じる)」とされることになりました。そのため、債権者(金融機関の場合が多い)としては、連帯債務者に対する時効中断の措置を講じておく必要が出てくるようになります。

 また、常に債務者の所在の把握等が必要になってきたようです。もっとも、常に債務者の所在を把握するのは難しいことから、契約書に絶対効があることを明記しておくことが必要になってきました。

 次に、連帯債権の関係につきましては、明文化されることにより、債権者団を結成して融資をする方法であるシンジゲートローン取引の利用促進につながってくるようです。金融機関にとっては、新たな金融商品の策定といった影響が出てくるものと思われます。

(6)保証

 何度も取り上げさせていただいておりますが、事業者借入に際し、個人保証が制限されることになります。

 金融機関にとっては融資をする際、保証人を立てることを要求するのが難しくなってきました。当然のことながら融資の際のハードルが上がってくることになるでしょう。また、金融機関は保証契約締結時に保証人に詳細な情報提供義務を課されることになりますから、その際の社内基準の策定等も必要になってくるでしょう。他方、融資を受ける企業にとっても借入が困難になるという問題点も出てきます。新規借入が困難になった場合の対処や、保証人候補者に対する明確な説明等の負担が出てくるのではないでしょうか。

(7)債権譲渡

 改正によって債権譲渡の円滑化が図られることになります。譲渡制限特約が付された債権の担保化が容易になりますので、借入をする側の企業にとっては資金調達が容易になるものと推測されます。

 一方で、債権の譲渡人が破産した場合の対処という問題が出てきました。一般論としては、譲渡人に破産手続開始の決定があった場合、債務者は債権譲受人の供託請求に対し、供託をすればいいことになります。

 ただし、この制度は譲渡人が破産した場合で債権の全額が譲渡された場合に限定して適用されることになりましたので、債権の一部譲渡や民事再生手続等においては適用されないことになりました。そこで、債務者の立場に立つ企業側とすれば、譲渡人に弁済を行うことになります。企業としては、債権譲渡人破産の場合の対応策を事前マニュアル化しておくことが必要となります。

(8)瑕疵担保責任

 瑕疵(かし)担保責任のルールが大きく変更することになりました。それに伴い、買主の救済手段が拡大することになり、売主である企業にとっては負担すべき責任が拡大することになりました。

 もっとも、実務では契約書により売主の責任は広く認められていましたので、責任内容に変化はないようにも思われます。つまり、契約書で明示していないようなケースでは責任が拡張する可能性があることに留意していただきたいと思います。

(9)消費貸借契約

 民法改正により従前から必要性が高いと言われていた「諾成的消費貸借契約(実際の金銭のやりとりがなくても貸借契約が成立しているという考え)」の明文化が行われます。その結果、安易な約束によっても消費貸借契約が成立してしまう可能性がありますので、企業としては注意することが必要になります。特にメール等のやり取りには注意を要することになります。社員に対する指導も必要です。

(10)賃貸借契約について

 基本的には判例法理を明文化しています。明文化された規定の中でも企業として注意すべきものを明らかにしておきたいと思います。賃貸人がその地位を留保することができる旨が明文化されます。実務上でよく認められているセール&リースバック契約の事案において、この改正によってテナントの承諾が不要になる可能性がありますので、容易に契約締結ができるようになりそうです。

 以上のように、改正に備えて企業が検討し、準備すべき項目は非常に多く存在します。ただし、一般論としては金融機関に影響が大きいのではないかと思われます。

 一般企業としては、改正により影響を受ける部分を理解し、早い段階に社内で対策を講じることをお勧めします。現状実務対応の書籍等は出ておりませんが、適宜書籍を購入し、また、法務担当者にセミナーを受講される等改正対策をすることが重要です。早期の対応さえしておけば、大きなトラブルに巻き込まれないと思います。