2014年11月21日10時46分
◆初の「言語条例」制定1年
全国初の手話言語条例を制定した鳥取県が、高校生を対象にした第1回の「手話パフォーマンス甲子園」(朝日新聞厚生文化事業団、朝日新聞社など後援)を23日、鳥取市内で開く。大阪、滋賀、沖縄など13都道府県の20チームが出場し、手話によるダンスや歌、劇を披露する。事前審査をトップで通過した地元の鳥取聾(ろう)学校(鳥取市)は、手話が禁じられていた時代のろう者の思いを劇で伝える。
◆学校で「手話禁止」の時代 劇に
劇の題は「証(あかし)」。1920~30年代のろう学校を舞台に、校内での手話を禁じられた生徒たちが署名を集め、校長に認めるよう訴えるストーリーだ。手話教育に尽力した大阪市立聾唖(ろう・あ)学校(現大阪市立聴覚特別支援学校)の元校長を描いた漫画「わが指のオーケストラ」をモデルにした。
10月の学校祭で中学・高等部の生徒たちが出し物をすることになり、この漫画を読んだ高等部1年の石上諒さん(16)が劇にしようと提案した。昨年10月に手話言語条例が制定されて1年。「手話を広めたいという気持ちを劇で表現したいと思った」と話す。
多くのろう学校はかつて、口の動きを読み取って発音を練習する「口話法」での指導を徹底するため、校内での手話を禁止していた。生徒たちは約50年前に鳥取聾学校を卒業した男性から、先生に隠れて手話をしたり、手話が見つかって廊下に立たされたりしたことを聞き、台本に加えた。
劇では、子どもたちのためにと口話で厳しく指導する先生と、手話を認めてほしい生徒の対立が描かれる。生徒役の高等部2年、細田彩斗さん(17)が「手話がない……。そんなの地獄だ!」と叫ぶシーン。最初は照れ笑いしていたが、鳥取市で「鳥の劇場」を主宰する演出家の中島諒人さんが「この時代にこの状況を強いられたすべてのろう者の代表として、君の怒りがあるんだ」と指導。迫真の演技になった。
今月初めには「全国障がい者芸術・文化祭とっとり大会」に参加し、会場を埋めた約300人の前で中学部と高等部の8人が約30分、上演。最前列で涙ぐむ女性もいた。手話甲子園では規定に沿って8分に縮め、高等部の5人で臨む。
指導した高等部の中井暁子教諭は「子どもたちは聞こえにくい分、普段から身ぶりなどで表現豊かに話す。演じることを通して、自信を持って自分の意見を言えるようになった」。手話の必要性を訴える先生を演じる高等部1年の新井ほのかさん(16)は「昔の人がいたからこそ、今の私たちがいる。優勝目指して本気でやります」と意気込む。
手話甲子園は23日午前10時半から鳥取市扇町の県民ふれあい会館で。県内からは倉吉北と境港総合技術の2校も出場する。観覧者募集は締め切ったが、会館内の別室でスクリーン上映される。実行委員会(県障がい福祉課内)のホームページ(http://www.pref.tottori.lg.jp/koushien/)で出場チームを紹介している。 (村井七緒子)
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(鳥取県手話言語条例)
鳥取県手話言語条例 手話を言語と位置づけ、手話の普及のため県や市町村、事業者、県民の責務や役割を定めた。ろう者とそうでない人が共生できる地域社会をつくるのが目的。2013年10月に全国に先駆けて施行された。全日本ろうあ連盟によると、北海道石狩市や三重県松阪市など全国の3市2町でも同様の条例ができている。