地政学シンクタンク、ストラトフォアの創業者、ジョージ・フリードマンは最近、「欧州の経済問題が、社会問題しつつある」と警鐘を鳴らしています。

彼によれば「ドイツやオーストリアなどの欧州大陸の中心に位置する国々の経済は比較的良いが、南欧の経済は悪い。この格差を埋めることが出来なければ、欧州連合というものに対する信任が低下しかねない」と主張しています。

さらに「ユーロクラッツと呼ばれる欧州委員会の官僚たちは、この中核国と南欧諸国との間の格差の問題に鈍感だ。その一方で経済的に苦しんでいる国々では、再び醜いナショナリズムが頭をもたげ始めている。前回、欧州で大きな経済混乱が起きたのは1920年代で、そのときは右翼からムッソリーニやヒトラーが登場した。ヨーロッパの国々にはそのような復古調願望とも言うべき後進性がいまだに抜け切れていない。そのような復古主義者は、往々にして人種差別主義者でもある。そして今回、若しドイツがリーダーシップを発揮しすぎると、そのような各国の国粋主義者たちの反感を買うだろう」と指摘しています。

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さて、ここからは僕の考えですが、欧州中央銀行は追加的緩和をすることで、そのような国粋主義の高まりを何とか抑えていると思います。

ただECBが出来ることには限度があります。

金融政策によるのではなく、財政政策による南北格差の是正を考え始めないといけない局面が来ているわけです。

ドイツは「ベルリンの壁」が崩壊し、東西ドイツが統一されて以来、最も低い失業率となっています。

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これは歴史的な高失業率に苦しんでいる南欧諸国との断絶があることを示唆しています。

人手不足になっているドイツは、外国から「新しいゲストワーカー(Die neuen Gastarbeiter)」と呼ばれる、高学歴・高スキルの若者たちをどんどん受け入れています。

このようなカタチで働き手の不足の問題が解決できるようになった原因はEUパスポートによって域内での人、モノ、カネの動きが自由になったことにあります。つまりドイツはEUのメリットを既に享受しているのです。

また南欧の経済的に困窮している国々の若者でも、高学歴・高スキルならドイツへ移住することで貧困から抜け出すことが出来るのです。

短期的に見れば南欧諸国にとって面倒をみなければいけない若者が減ることは「口減らし」になり、財政への負担軽減になります。

しかし長期的には若くて優秀な労働力が外国へ流れてゆくことで、南欧諸国の経済の活力はさらに弱まると考えられます。