右腕と右足を失った15歳の少年がいた。左目を失い、両手足を複雑骨折した9歳の少年がいた。内戦の続くシリアで空爆や砲撃を受け、大けがを負った子らである。隣国ヨルダンの病院などで治療やリハビリを受けている▼日本国際ボランティアセンター顧問の熊岡路矢(みちや)さんらが10月半ば、現地を訪れた。今後の難民支援のための準備だ。コンクリートの建物の下敷きになった重傷者が多く、回復には時間も費用もかかりそうだという▼現地で撮った写真を見せてもらった。子らは熊岡さんが持参したプレゼントのおもちゃで遊んでいる。笑顔もあるが、陰りのある表情やうつろな顔の子もいる。この目は一体何を見てきたのかと想像すると胸が詰まる▼シリア情勢を憂慮しつつ、熊岡さんが今回感じたことがある。ヨルダンで接した人々の日本イメージが一時より好転していたのだ。「自衛隊のイラク派遣でとげとげしくなっていた視線が、元に戻った」。人道支援に徹することの大切さを再確認したという▼熊岡さんは約30年にわたり、カンボジアなどの紛争地でNGO活動をしてきた。近著『戦争の現場で考えた空爆、占領、難民』でも強調している。世界で働く日本のNGOメンバーの命を大枠で守ったのは、戦後の平和主義だという実感がある、と▼自分は平和運動家でないし、安保政策を議論するのも当然だ。そう断りながら、経験に照らして、例えば集団的自衛権の行使容認は拙速だと言う。修羅場を知る人の言葉は重い。
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