2014年現在、中学生より若い「ミレニアム世代」が知らないものを列挙してみたい。案外多いはずだ。無意識のうちに世代格差を明るみにして恥をかいたら大変だぞ!
「走るホテル」と呼ばれたブルートレイン。
ベッドで眠りながら遠くの地方都市に行くことのできる快適さが人気を博したのは高度成長期のこと。ミレニアム世代の両親が子どもの頃だ。
ミレニアム世代が生まれる前にはほとんどのブルートレインが廃止され、「夜行バス」が世の中の主流となってしまっているため当然知るよしがない。そもそもアルミ缶のようなステンレス電車にしか乗ったことはなく「鉄道車両に色がついている」こと自体になじみがない。ブルートレインと言う言葉を聞いても、鉄道マニアの子どもでもなければピンとこないはずである。
②戦争体験世代
ミレニアム世代にとって「ジージー・バーバー」は60代の団塊世代。つまり戦争体験世代が身の回りに存在しない。ちなみに「お爺ちゃん、お婆ちゃん」と言う言葉すらこの世代からすれば死後だ。
20代から高校生くらいの世代であれば、大正~戦時中生まれが祖父母の当たり前のため、社会科の夏休みの宿題で戦争体験の聞き取りをすることができる。ミレニアム世代には戦時中を生きた親戚がいない。彼らにとっては完全に、江戸時代や縄文時代と同じ歴史となってしまっている。
③面白い地上波テレビ番組
ミレニアム世代は、デジタルネイティブ(生まれつきパソコン・携帯電話の存在するネット世代)どころか、物心をついた頃からすでに今のようなSNSや動画が高度に発達している世の中になっている。
「若者のテレビ離れ」と言う現象は、ネットの普及に伴い地上波テレビの視聴率が減り、広告収入が減り、予算が減らされ、計算しやすく安定した数字の稼げるテンプレ的な安直な雛壇バラエティーが横行し、全盛期のような面白い番組が作れなくなり、ウンザリした若者が地上波を見限って衛星放送やインターネットに流れているものだ。だが、ミレニアム世代は、豊かな予算で作られる地上波の面白いテレビ番組がなくなってから生まれているからさらにその上の次元にある。
この感覚は、ネットのないテレビ黄金時代に人生の大半を過ごした昭和育ち世代からすると一見想像しづらいかもしれないが、あなたがたが生まれる前に崩壊した日本映画業界が、ミレニアム世代にとっての地上波テレビと同じだといえば納得がいくはずだ。昭和時代、面白いコンテンツといえばテレビで、映画はもっぱらハリウッド物しか楽しめるクオリティなくて、日本映画は家族三代で連れて行かれる退屈でマンネリでだらだらしたテンプレに則った作りの「寅さんシリーズ」しかなかったように、ミレニアム世代は地上波テレビのバラエティやワイドショーには「団塊のジージー・バーバーと両親に付き合わされるメディア」という認識をもっている。
CS放送の海外番組はHDや4Kで見るに値するクオリティがあるので、テレビと言う媒体そのものに否定をするわけではないのが唯一の救いだ。
④遊園地
この画像のような「正統派遊園地」をミレニアム世代は知らない。
観覧車は遊園地の乗り物というよりは、「都会の一部の大型商業施設に併設されているもの」と言う認識が彼らの主流だ。ディズニーランドやユニバーサルスタジオはテーマパークとしてしっかり認識している。たぶん遊園地と言う言葉の意味も知らない子も多いと思う。「活動写真」とか「国電」とか「社会党」とか「アベック」みたいな語感ではないか。
ここ、神奈川県にはいくつもの「正統派遊園地」があったが、2000年代半ばまでに全滅している。全国的にも同時期に閉園し、跡地は廃墟になったり、墓場になったり、大学になったり、アウトレットモールなどに転換されている。現存している遊園地も、行く人は限られている。親が遊園地運営会社関連の仕事をしていて福利厚生で行くとか、地域住民の優待券があるでもないと、まず選択肢にもならないだろう。若い彼らにとっては日本庭園くらいに敷居の高い施設だ。そもそも遊園地の存在しないという県もある。
⑤正統派のレストラン・喫茶店
たとえば軒先に食品サンプルのずらりと並んでいるような正統派のレストランを、この世代は知らない。キーコーヒーの看板がくるくる回る個人経営の喫茶店も知らない。これらは街角からはすでに消滅してしまっている。デパートの屋上のレストラン街や「大食堂」も知らないし「パーラー」も知らない。デパートが存在しないからだ。90年代生まれの高校生世代の上辺の一部が、こういうものをギリギリ体験できた最後だろう。育った地域や家庭が悪ければ25歳の平成元年生まれですら知らないはずだ。高速道路のサービスエリアに併設している正統派レストランも今では民営化によってフードコートなどに改装されている。
つまり、ミレニアム世代は戦後日本に華やいだ外食文化の基準値とは大幅にずれた常識を持っている。
この手の正統派レストランをさらにカジュアルにしたのがファミリーレストランだが、ミレニアム世代にとってのファミレスと言えば「ガスト」である。本来、ガストはファミレス元祖の「すかいらーく」のそのまた格安版なのだが、ミレニアム世代が離乳食の頃にはすかいらーくの店舗は激減。わずかな残党も2009年までに全滅している。
すなわち、ガストやサイゼリアこそ平均的で、ロイヤルホストやジョナサンやデニーズは「ごちそう」である。地元がダサい地域ほどその傾向が強く、「首都圏に旅行に出かけた時に初めての大戸屋にドキドキする」ようなことすらもある。シズラーやレッドロブスターなんてもはや超高級レストランかもしれない。
しかし、たとえばシティホテルのフロントのかたわらにあるレストランだったり、都会の雑居ビルの一角とかに、残るものは残っている。たぶんあと10年後もあるはずだ。これらはミレニアム世代の生活導線にはないものの、やがて彼らもアルバイトなり就職先としてそこに勤めることになる。その時現場で「ファミレス用語」が飛び交ったり、通常ありえない接客対応が行われるようになるに違いない。
知らないことは罪でも恥でもなんでもないぞ!
世代間格差はいつの時代も存在するものだ。明治時代生まれだって、きっと昔の常識を知らずにコテコテ江戸時代育ちの曽爺さんに怒られたのだろうし、その子も、孫も、その都度時代のギャップに晒され続けたことだろう。
ミレニアム世代には大きな利点もある。昔を知らない代わりに、グローバリズムに順応していることだ。2000年以降爆発的に普及したショッピングモールはアメリカおよび世界各国の平均的なものと全く同じ作りをしている。ファストファッションも世界共通だし、インターネットなんて究極だろう。
ゆとり教育を受けている平成元年以降90年代生まれはロクなのがいないため、いずれ中年になれば使い物にならない大人になるはずだ。今発生している意識高い系大学生の炎上騒動なんかまさにゆとり丸出しの事案である。
それよりも、今中学生より若い世代の方がよほど世の中をよくしていく実力があるものだと思っている。下流的で貧相な文化と侮るなかれ。戦後のバブルの繁栄を作り上げた世代は、大正モダンを謳歌できず、幼少~青年期を焼け野原に生きた戦争体験世代だったのだから。