ただ、そうは言っても漁船の装備や燃料費などの試算だけでは、中国軍が関与する決定的な証拠とはなり得ない。それでも防衛省や官邸筋がこの見方を強めているのには、さらなる理由が存在するのだ。
自衛隊幹部がこう続ける。
「実は外務省筋によると、中国軍内部から『この密漁行動は陽動作戦』とする声が、漏れ伝わってきているという。それによれば、中国軍の思惑は小笠原ではなく、『密漁作戦で日本の海上警備体制を分断し、尖閣に上陸して開戦に踏み切ることにある』という。これは我々が入手している尖閣奪取計画のうち、最も可能性が高いものと合致する。漁民に扮した工作員や民兵が尖閣に上陸し、中国国旗を掲揚して領有の既成事実を作るという作戦だが、その前段階として海保、海自の分断作戦を仕掛けてきた可能性が高いのです」
さらに、この自衛隊幹部によれば、密漁行為は以前から中国軍が唱えていた「超限戦」という戦術に酷似しているという。この戦略は通常の戦闘以外に、外交、テロ、諜報、金融、ネットワーク、法律、心理、メディアなどを駆使した複合戦だが、一連の動きはこの戦術にピタリと当てはまるのだ。
「実際、200隻の漁船が小笠原周辺に詰めかけ、第三管区海上保安部をはじめ、他管区の巡視船も釘づけになっている。その一方で、相変わらず中国軍は、海警局所属の公船『海警』などを日本の領海に侵入させ、沖縄の第十一管区海上保安部を厳重警戒にあたらせ、海保の力を削いでいるのです。また、その最中に中国政府は、11月10日から北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)中の日中首脳会談を了承。硬軟併せ持つ巧みな波状攻撃で、日本政府を揺さぶり続けているのです」(同)
だが、仮に中国の狙いが尖閣諸島の奪取にあるとすれば、気になるのはなぜ今、中国側がこの作戦を実行に移したのかという点だ。実は、そこには2つの大きな動きがあるといわれているのだ。
政治部デスクが指摘する。
「その最たるものは、米国の弱体化だといわれている。知っての通り、米国では中間選挙でオバマ大統領率いる民主党が大敗北。東アジア各国の領土問題に対する抑止力を失い、自分の頭の上のハエすら追い払えない状態に陥った。中国側が諜報戦でこの事態を予測していたのは確実で、2カ月ほど前から小笠原にサンゴの密漁攻勢を仕掛けたとみられるのです」
実際、米国の没落ぶりは凄まじい。中間選挙でオバマ政権が歴史的敗北を喫した矢先に、傷心のケリー国務長官が「米中関係が最も重要だ」などと迷演説を繰り広げたほど。また、これに続き海軍制服組のトップであるグリーナート作戦部長が突如、南シナ海や東シナ海で中国海軍と軍事演習を行う方針を明かし、同盟国を仰天させているのだ。