岐阜県美濃加茂市長が浄水プラント導入で賄賂を受け取ったとして受託収賄罪などで起訴された事件で、毎日新聞が市長逮捕直後、贈賄側業者が金融機関の口座から賄賂を渡した日に「同額」を引き出していたことが「立件の決め手」になったと報じたが、事実と異なっていたことが、9月の初公判の検察側冒頭陳述で明らかになった。1回目の賄賂10万円を渡したとされる日に贈賄側が引き出したのは15万円、2回目に20万円を渡した日に引き出したのは90万円で、いずれも「同額」ではなかった。日本報道検証機構が捜査段階の主要紙の報道を調べて分かった。美濃加茂市長は逮捕前から一貫して否認しているが、当該記事は、贈賄側の証言を裏付ける重要な状況証拠が存在するとの誤った印象を与えた可能性が高い。
美濃加茂市の藤井浩人市長は、市議だった2013年4月当時、経営コンサルタント会社「水源」社長の中林正善氏=贈賄罪で起訴、公判中=から、同社の浄水プラントの市への導入を働きかける見返りに、4月2日に現金10万円、25日に現金20万円の賄賂をもらった疑いで、6月24日逮捕された。受託収賄罪などで起訴された後保釈され、市長の職務に復帰。9月17日名古屋地裁で初公判が行われ、現在も裁判は続いている。(写真は日本報道検証機構・田島輔撮影。左が藤井市長、右が弁護人の郷原信郎弁護士=2014年10月1日、名古屋地裁前で)
誤報だったのは、藤井氏が逮捕された3日後の2014年6月27日付毎日新聞中部本社版25面に掲載された「美濃加茂汚職 賄賂同額 口座引き出し 贈賄容疑者 取引記録決め手」。リードで、中林氏が藤井氏に「賄賂を渡したとされる日に、金融機関の口座から同額の現金を引き出していたことが、捜査関係者への取材で分かった」と報じ、「口座の取引記録の存在が立件の決め手となったとみられる」と記していた。中林氏が藤井氏に4月上旬に10万円、4月下旬に20万円の賄賂を渡した疑いに関して、「捜査関係者によると、中林容疑者が管理する金融機関(本店・岐阜県)の口座には、それぞれの日に同額を引き出した記録が残っていた」と報じていた。贈賄側の金融機関口座から賄賂と同額の引き出し記録があると報じたのは毎日新聞だけで、他紙は後追い報道していなかった。
しかし、検察側は、9月17日の初公判の冒頭陳述で、中林氏は4月2日、「水源」名義の銀行口座から「現金15万円」を出金し、うち5万円を知人口座に振り込み、残り10万円を銀行の封筒に入れ、藤井氏に渡したと主張。4月2日の口座取引記録に、賄賂と同額の10万円を引き出したとは主張していなかった。賄賂20万円を渡したとされる4月25日についても、中林氏は別の「水源」名義の銀行口座から「現金90万円を出金し、70万円を別口座に入金し、現金20万円を手元に残して藤井氏に渡したと主張していた。
当機構が毎日新聞社に6月27日付記事について訂正する考えがあるか質問したところ、同社社長室広報担当者は「すでに冒頭陳述に関する続報で、新たに判明した事実を報道し、記事内容を修正しています」と回答した。しかし、当機構が調べたところ、毎日新聞は9月18日付中部本社版29面で初公判を詳報した際、藤井氏の入金記録についての新情報に言及していたものの、中林氏が賄賂を渡した当日に銀行口座からいくら出金していたのかについては全く言及していなかった。検察側冒頭陳述の要旨にも記載していなかった。
(美濃加茂市長汚職事件に関する初期報道について、その他の誤報についても続報を予定しています。)
(初稿:2014年11月23日 14:55)