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(cache) ゆるりふわり 斬左、戦国に参る 第九話

へっぽこ実験SS部屋 オリジナル、二次ごちゃ混ぜ空間 ここはメアリー・スーの隠れ場所だお(´・ω・`)

ゆるりふわり
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斬左、戦国に参る 第九話

2014/02/09 03:04|記事CM:0

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織田信奈の野望─斬左、戦国に参る─
 さすがに大店の店なだけはある。きっちりしてら。
 商人司ってのは大分儲かるんだな。

 左之助は店の様子をひとしきり眺めた後に履物を脱いで奥に上がっていた。 
 
「相楽、あまりキョロキョロするな」
「へいへい」

 伊藤屋の奥に通され、左之助と勝家は庭が見える部屋に入っていた。この部屋には往来や店の音は伝わってこない。 

「失礼致します。伊藤惣十郎にございます」

 廊下から現れた伊藤屋が部屋に入るとすぐに頭を下げていた。その後ろにいた吉乃もまた頭を下げる。

「本日はお越しいただき……」
「いや、そうかしこばらなくていい」

 勝家の言葉に伊藤屋と吉乃が頭を上げる。

 女ってのは化粧すると化けるよなぁ……

 正徳寺での信奈の変わりっぷりを思い出す。普段からのうつけっぷりからの変身は左之助も虚をつかれたのだ。
 目の前にいる吉乃は化粧をしてその身を整えていた。
 頬は薄く白塗りに、唇には紅をさしており、着物も上等の仕立てで髪も結い上げていた。良家の子女といった風情で礼儀正しい居住まいだった。しつけの良さが身についている。
 月夜の下で見た素朴な少女は年齢よりも幼く見えたものだが、そのときとはまた違う雰囲気で、歳相応の若い娘として左之助の前にいた。
 信奈とはまた違う魅力をその身に宿していた。信奈が艶やかに咲く向日葵の大輪と例えるのなら、吉乃はひっそりと咲く菫(すみれ)の花のようだった。

「相楽様には二度に渡って娘の命を助けていただき、真に有り難うございます」
「二度? どういうことだ?」

 伊藤屋の挨拶に勝家が疑問の声を上げる。

「柴田様。先日、娘が習い事から戻る途中、暴れ馬が出たのでございます。その際、馬に蹴られそうになった娘を助けていただきました」
「そうなのか。相楽?」

 これも勝家には初耳だった。

「まぁ、そんなこともあったかな……」

 不機嫌そうな勝家の様子に左之助は少し及び腰になって頬をかく。散々、隠し事はないのかと絞られた後である。

「お前には首輪でも付けておいたほうがいいかもしれんな」

 言うことなどまず聞かないじゃじゃ馬だ。縄と言わず鎖でもいいくらいだ。
 勝家の左之助評は少し辛い。

「そんな細けえことまで気にすんなよ。暴れ馬を捻っただけだ」
「馬を素手で捻れるような者などあまりいない……」

 勝家は息を吐きだして呟く。暴れ馬ごとき自分でもどうとでもできるが、それをこの場で言いたくはなかった。
 ちらりと吉乃を盗み見る勝家。吉乃は勝家とはまるで異なるタイプだ。
 はっきりと個性を主張する印象ではないが、大人しさの中に女らしさを滲ませる、どこか守りたくなる女性としての魅力というものを持っている。
 織田家の女武将にはいないタイプである。姫様の身の回りにいる女武将は、いずれも武や知に秀でた者達で占められている。
 同列に見るのは間違っているのだが、今の自分は侍姿でそれを恥じるようなことなどまったく無いのだが、同じ女として隣に立てば敗北は必至だ。

 私とて化粧をすればこれくらいに……む、無理か……?

 人知れず対抗心を燃やして、瞬時に敗北感にさらされる勝家であった。

「織田家には剛勇の柴田様と相楽様がおられる。実に頼もしい限りで、おかげで我らは商売に勤しみ、織田様方のお役に立つことができます。有難いことです」

 伊藤屋が口を挟む。左之助への助け舟のようにも聞こえたが、勝家は要件を済ますことにした。
 気を引き締めて姿勢を正すと吉乃に向き直る。

「ふむ……私はそちらの吉乃さんに聞きたいことがあってきた。用が済めばすぐに帰る」
「はあ…吉乃」
「はい」

 伊藤屋に促され、吉乃が応えて勝家に小さく頭を下げた。

「吉乃さんでしたか。本日伺ったのは、さらわれた時の状況とあなたをさらった者達は何者であったか。分かる範囲で良いから話してもらいたいからだ。憶えている限り話してもらいたい」

 吉乃を見つめて勝家は事務的に問う。
 目の前の少女はたおやかで美しい。年頃の娘らしい格好で、それは勝家が捨てた姿であった。 
 柴田の家を継ぐと決めたときに捨てたものである。

 何を考えているのだ私は? 男にどう見られようが関係ない。もう忘れろ。

「はい…お花の先生のところから戻って、家の門で声をかけられたのです。人の気配を感じたと思ったら、気を失っていました。再び気がついたとき、暗い小屋の中で縛られていました。目隠しもされて、誰一人、さらった人達の顔を見ていません。左之助様に助けて頂くまで……」

 吉乃はポツリポツリと思い出すように伝える。

「ずっと目隠しをされていて顔は見ていないか……」
「申し訳ありません」

 勝家の呟きに吉乃は頭を下げて沈黙した。
 吉乃は唯一見たはずの田坊のことは伏せていた。男達のやりとりと戦いの音。ただ怖くて震えていたこと。
 思い出すだけで怖いが、一人、危険であるのに自分を助けに来た男がいたこと。
 その背に背負われて月夜の夜を帰ったこと。
 それらのことは吉乃の胸の内にしまい込まれていた。

 左之助もそれに口は挟まなかった。吉乃が話さないのであれば黙っていれば良いことであった。

 二、三。勝家の質問が続いたが、吉乃の返答は勝家が左之助から得た情報と変わりがなかった。
   
「委細承知した。伊藤屋、このことは信奈様に私から報告申し上げる」
「はい、この件は相楽様にはどう働きましょうか?」

 伊藤屋はへりくだりながらも正面から勝家を見つめる。それを見つめ返して勝家は言葉を選んだ。
 この一件を姫様がどう判断するかについては勝家も自信がなかった。左之助が取った行動は、足軽という立場にせよ軽率であったという他ない。
 娘が無事帰ったことを含めても何がしかの処置は下るはずだ。
 伊藤屋が相楽を買っていることは疑いようもない。それは織田にとってどう働くのだろうか?
 恩賞が出るとか言えば相楽を付け上がらせるだけだ。
 家老としてもうかつな返事はできない。どのような判断をするのかは主である織田信奈が決めることなのだ。

「それ相応のことにはなりましょう」
「そうですか……」
「では、私はこれにてごめん。相楽はゆっくりしていけ、私は城に行く」
「ああ」
 
 それ以上の言葉は不要と勝家は立ち上がる。去り際、吉乃と左之助を一瞥してこの場から立ち去っていた。



 左之助は伊藤屋の歓待を受けた。
 席には山海の珍味が膳に並べられ酒も出ていた。料理した人間も一流の腕前とわかる数々だった。
 庶民の口にはとうてい入らないものばかりだ。これだけのものをとっさに用意できるわけもないが、伊藤屋であればすぐにでも取り揃えたと言っても通じそうだった。
 
「吉乃、お酌をして差し上げなさい」
「はい、どうぞ」

 吉乃が酒の入った瓶に手を添えて差し出す。

「おう、わりいな……」
 
 盃に酒が注がれて左之助はそれを一気に飲み干していた。喉元を伝わって、熱い雫が胃に落ちる。久しぶりの酒だった。
 吉乃は膳に手をつけるでもなく側に控えている。
 ひとしきり手を付けた後に伊藤屋が切りだす。

「相楽様」
「何だい、伊藤屋さん?」
「実は折り入って見てもらいたいものがございます」
「見てもらいたいもの?」
「相楽様に報いれる物をと考えましたが、何を差し上げればご満足頂けるのか考えておりました」
「別に俺はうまい飯と酒でも十分だけどよ?」

 目の前の膳の食器は食べ尽くして空である。支払えと言われても払う物はない。

「吉乃、蔵の鍵を持って来なさい」
「はい」

 伊藤屋の指示で吉乃が部屋を辞すると、伊藤屋は居住まいを正して左之助の正面に居座った。

「私が思うに、相楽様はご出世なさいます。初めて会ったときからそれだけの器量を備えたお方と思っておりました。それに私達市井に生きる者を省みてくださるお侍様は少のうございます。例え上役であろうと間違いを正し諫言できる。これは大変勇気のいること。武勇と知恵のある御方と存じます。実は先ほどの騒ぎを私も見ておりました。そして私の心は固まりました。この私、伊藤屋に相楽様の後見として立たせて欲しいのです」
「後見って……」

 伊藤屋の言葉に左之助は驚くが、薄々そんな話ではないかという予測はあった。関心のない相手をここまで歓待する理由などない。
 命の恩人という部分が大きいのだろうが、それ以上の関わりを持つとは考えにくい。裏はあるとは思ったが、それに見合うものを返せるかと言えればこの身は一つしかない。
 あえて飲み食いまでしたのはなるようになるさ、という気持ちだったからだ。

「相楽様のことは調べさせていただきました。大陸から裸一貫でこちらに渡って来られたと聞いております。相楽様にはこちらでの後ろ盾がございません。この伊藤屋にわずかなれどお世話をさせていただきたいと思っている次第です」
「俺はただの足軽だぜ?」

 弄んでいた盃を膳に戻して左之助は伊藤屋を見つめる。
 ただの足軽に後見など大げさ過ぎる。どういう意図での申し出なのか左之助にはまだ判断がつかなかった。
 
「相楽様は欲のない方です。そして義に生きておられる。娘の命を救ってもいただいた。初めて会ったとき、あなたは金子を受け取らなかった。受け取ったのであれば、私もあなたのことを気にはしなかった。しかし、あなたはきっぱりとお断りになられた。そして思ったのです。相楽左之助という人物はどのような人間であるかと興味が湧きました」
「伊藤屋さんから見て、俺はどう見えるんだ?」 

 試すように左之助は伊藤屋を見返していた。

「織田家になくてはならないお方と思っています」
「その価値が俺にあると?」

 ただの買いかぶりだ。そう返答するのは簡単だ。
 だが、自分を安売りもしない。自分を高く買ってくれる男がいるのであれば高値で売りつけるまでだ。
 喧嘩屋商売で身についた無頼の作法だが、これは交渉事だ。押して、引いてなんぼである。

「あなた様が賭けるものに私も賭けてみたいのです。相楽様が織田の姫様に賭けたように、私も相楽様に賭けてみようと思うのです」
「それって正徳寺のか?」

 美濃の蝮に刀を向けられて左之助が言い放った一件のことだろうか?

「伝え聞いております。私も尾張の商人司ですからね。耳は持っております」

 そう言って伊藤屋が笑う。やはりただの商人ではない。
 正徳寺での件は、織田家筋に出入りする伊藤屋であれば耳早く把握していたということだろう。
 相楽という一介の足軽が美濃の蝮に意見した話がどのように伝わったのかはわからないが。
  
「俺なんかに賭けたら大損するかもしれないぜ?」
「それは商人の常です。商いとは金を動かし、物を動かす。見極めなければ破産する。幸い、私は成功したと言える人間でしょう。しかし、この戦国の世でいつ全財産を失うかわかったものではありません。この世の中を託し、平和な世界を創ってくれる方が必要です。織田信奈様は天下に立つ器量がある方。しかし、尾張はまだ統一されていません。あのお方にはまだまだ人材が必要です。相楽様のような方が必要なのです」
「俺はただの足軽だぜ?」
「今は足軽でしかないかもしれません。しかし、信奈様が明日という世の中を創るために、必ず相楽様の力を必要とするでしょう。もし、見誤っていたというのであれば、この私の目が甘かったということです」
「明日か……」

 誰もが争いのない世の中を望んでいる。だがそれを実現するのは難しく困難を伴う。それを可能にするのは、この時代においては武力を持って天下を統一できる者だけだ。
 この戦国で法と秩序ある平和な世界を打ち立てるにはそれしかない。
 史実ではそれを成し遂げたのは徳川家康だが、この世界は左之助の知る時代とも異なる。誰が覇権を握るのかなどわからない。
 織田信奈がどこまで行けるのか、それを見たいと思ったのだ。
 それが自分の道であるというのならば、その道を歩いて確かめたかった。この世界に迷い込んだ左之助が寄るべきところがどこにあるのかを探す道でもある。
 この世界に来て、若返った意味を考えてもどうしようもないことだ。自分が行く道に帰り道があればいい。
 
「商人では天下は治められません。どんなに金を持ったとしても、それは危ういものでしかないのです」

 伊藤屋は蝮と同じことを言った。それは武力を持たない市井に生きる者の限界でもある。

「あんたに俺が報いれるものなんて何もねえ。だが、あんたの申し出受けるぜ。それでいいか?」
「伊藤屋は相楽様に投資をするのです。伊藤屋惣十郎はあなた個人に賭けるのです。元を取れるかは私と相楽様の腕次第。織田様が天下を治めるのであれば、それだけでも大儲けですからね」

 二人の男の視線が交じり合う。そして左之助は笑った。

「そりゃ少し皮算用がすぎるぜ、伊藤屋さん」
「夢は語るだけならただですからね」
「お父様──」

 吉乃の声が響く。先程から戻った吉乃が部屋の外にいたのだが、話に区切りがつくのを待っていた。
 その手には鍵があった。

「相楽様に見せたいものが蔵にございます」
「何だ?」
「どうぞ、こちらへ」

 伊藤屋は立って部屋を出る。そして蔵のある方へと案内をする。
 裏手にある蔵は大きかった。それがいくつかあるのだ。伊藤屋の商人としての実力が伺えた。

「吉乃、鍵を開けなさい」

 命じられた吉乃の手によって重い錠が外されて扉が開く。薄暗い倉庫の中が見えて、明かりを持った伊藤屋が中に踏み込んでいた。
 蔵にあるのは武具だった。槍に弓。矢に具足が置かれ、暗い中に差し込んだ光に刃の鈍い光が反射している。

「へえ……」

 一通り見回すが左之助としてはあまり興味が無い。
 信奈の供回りとしての刀は持っているが、槍は持つなと言われている。

「見せたいものってのはこれかい?」
「ええ、奥にどうぞ」

 伊藤屋が明かり片手に蔵の奥へと誘う。

「吉乃は戻っていなさい」
「はい」

 明かりが照らしだしたのは白木の蓋だ。大きな入れ物で、武具かどうかはわからなかった。
 伊藤屋が蓋に手をかけていた。

「見せたいものはこれです。聞き及んだ話で、あなたの力があればもしやこれを振るえるのではないかと思ったのです」
「武器にしちゃずいぶんと長物だな?」
「はい、これを手に入れたのは十年ほど前まで遡ります。その頃の私はまだまだ青二才でございました」

 蓋に手をかけたまま伊藤屋は由来を語り始めていた。

「昔から戦というものは武具を発展させるものでした。一騎打ちを常とする世の中であったこともございます。剛毅な腕力を示すことがお武家様の栄誉を示したものです。しかし、中には人にはとうてい振るえぬほどの物を作ることもございました。今ではそういうことはありませんが、大太刀は神前に奉納されるものとなりました。その中でもかつて振るったのがただ一つだけ、大太刀の中でも超がつくほどの巨大なものを所持した侍がいたといういわくつきの物があります。伊勢のとある神社にあったそれが台風で神殿が破壊されまして、その際、引き取り手がなかったのを私が引き取ったのです。以後、神社の再建は叶いましたが、あまりにも曰くつきのものということで、ずっとこちらで預かったままとなっていました」

 白木の蓋が外され、それを覆っていた布が取り除かれる。暗闇に揺らぐロウソクがその刀身を照らしだす。

「こいつは……」
 
 絞り出した声は乾いていた。左之助の前にあるものへの驚きにそれ以上の言葉が続かない。

 斬馬刀────

「鬼切りの斬馬刀と呼ばれるものでございます。馬ごと切り倒すという大太刀でございますが、あまりにも巨大ゆえ扱える者はおりませんでした。これを所持したという侍の名は知られてはおりませんが、これを背負って鬼をも斬り殺したという逸話がございます。ゆえに鬼切りの名で呼ばれておりました」

 その逸話は知っている──お前なのか?

「相楽様?」
「ああ……」
  
 白木の箱の前で斬馬刀を見下ろす。その姿形まで左之助の記憶にあるままだった。
 それは刀としてはあまりに肉厚で、長く、重かった。鉄塊そのものとも言える代物で、刀でも槍でもなかった。
 手を伸ばし柄を握る。ずしりとした重みが全身の筋肉と骨に圧迫を加えていた。

「おお……」

 恐ろしい重さの超重量武器である。これが人の手に触れるのは十年ぶりのことだ。何よりも伊藤屋に衝撃を与えたのはこの斬馬刀を持ち上げる人間が目の前にいたことだった。
 まさに天が与えた人物である。まさかとは思っていた。これを振るえる人がいるのであれば、その人物はまさに鬼であろうと考えていた。
 そして今眼の前にいるのは紛うことなく人間だった。

「これはあなた様のものでございます。どうか、お納めくだされ」

 恭しく伊藤屋は頭を垂れていた。天啓が下ったかのように感じていた。
 もし、本当にこれを持てるような人間がいるのであれば、商人としてではなく、人としてその人物の近くにいたいと思っていたのだ。
 人ならざる者を斬り伏せる刀を人が持つこと。尋常ならざる運命の糸のようなものを感じ始めていた。

「あ、いや…こいつは受け取れねえ……俺にはこいつを持つ資格なんてねえ」

 俺はこいつを…斬馬刀をまた持つ資格はねえ。俺はお前を使い潰しちまったんじゃねえか。
 それはかつてあった戦いの記憶。埋もれながら忘れなかった苦い別れの記憶だった。

「資格とは?」
「いや……」

 伊藤屋の問いに答えられない。沈黙は闇の中に消える。

「構いませぬ。時が今ではない。私はそのように思います。もし、これが必要になったらいつでも声をかけてくださいませ」
「そうさせてもらうさ……」

 左之助は斬馬刀を下ろして箱に横たえる。手に残った感触を両拳に握りしめた。
 ロウソクの炎が揺らいで左之助の横顔を照らしだす。
 そして白木の蓋が閉められ、斬馬刀は再び暗闇の中に還っていた。

「外の光が眩しいぜ……」

 蔵の外に出て空を見上げれば、空はどこまでも眩しくて左之助は目をつぶっていた。
 


 その数日後、駿河────

「討ち取れなかったですって? この無能っ!」

 白石の敷かれた小さな庭。縁側の下に控えた半蔵に向って硯が投げつけられる。それを半蔵は額に受けていた。

「わたくしは殺せと命じたのですよ? 半蔵、お前の部下は使えないのねえ」

 文机に肘をついて顎に指を当てるのは今川義元だった。穏やかな口調だが、その音の中に苛立ちを滲ませる。
 季節的に暑いのできらびやかな十二単を着崩して素足まで晒している。はしたなさも大名ゆえにどこまでもし放題。それをして、できるのが自分であると自負しているのだ。

 しかし今は、指先を苛立ちを隠さずに机に叩きつけていた。

 これまで、半蔵とその部下を使って後ろ暗い仕事を与えてきたが失敗したことはなかった。
 ある程度、その仕事ぶりには信頼を置いていたのだが失敗したという。相手の腕が立つとしても仕損じることなどありえないとも思っていた。
 使える部下の失態。つまりは、相楽左之助という男はこちらの手駒以上に手強いという事実。それを素直に認めることが許せない。

「必ずやこの半蔵が奴を殺します」
「その言葉、果たせなかったらどうするつもり?」

 義元が半蔵を見下ろして告げる。
 半蔵の黒ずくめの覆面からは何の表情も伺えない。それがさらに義元を苛立たせるのだ。

 涼しい顔をして何を考えているのやら?

「いかようにも……」
「罰は受けるってことかしら? お前の部下は孤児を拾って育てているそうねえ?」
「は……」

 半蔵が使っている男達は三河の下級武士だ。士官の口もない男達を半蔵が拾って使っていた。
 拾った中に戦災で親を失った子もいた。見どころがあれば武術と忍びの技を教えて生きる術を与えた。
 生きるための術として半蔵が与えたものは人殺しの技だった。

「お前が相楽を殺せなければその子ども達を殺します」
「御意……」

 頭を下げた半蔵を眺める義元の目が細まる。
 非情な言葉にも半蔵は相変わらずの無表情だった。

「でも、わたくしも鬼ではないわ。その相楽という男の首を持ってきたならば、お前をわたくしの直参にしてあげる。元康さんに話は通すから心配しなくてもいいわ」

 いったん言葉を区切って義元は半蔵の反応を伺う。

 食えない男だ。この男の忠誠心の在処はどこにあるのだ?

 半蔵のことは有能だと認めていた。その有能な男が狡猾な元康に忠誠を誓っている。松平を取り込んで入るものの、三河の家臣団は義元に忠誠を誓っているわけでもない。
 分離させて取り込めれば怖いものはなくなる。義元が恐れるのは外敵ではない。身内であった。
 
「もちろん、お前の配下もよ。悪い話ではないでしょう? たかが一人の男を殺すだけの簡単なお仕事。松平にいては叶わぬ待遇を約束してあげる」  
「相楽の命…必ずや」
「半蔵、お前の忠誠を示しなさい」

 半蔵に冷笑を投げかけると義元は庭から立ち去っていた。
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織田信奈の野望─斬左、戦国に参る─



文章全体の長さは、8260字です。

これは、原稿用紙 20.65枚、A4用紙5.74枚程度にあたります。
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月島兎歩(つきほ)

Author:月島兎歩(つきほ)
プロフィール詳細
執筆手順
自己紹介
FF11の合間にSSを書いてる人。
作者のまね事みたいなことしてれば満足(´・ω・`)
作者は創作物の世界観をいじくって遊ぶのが好きなタイプなので原作の流れを主体とした純粋な二次SSとは言いがたいものをメインとしているよ。
そういうのが受け入れられない人は読むだけ時間の無駄だよ!
ゆっくり読める人はゆっくり読んでいってね!
なお不定期(´・ω・`)


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