クローズアップ 週刊文春 掲載記事

内側へ内側へ縮小する
スマホ世代への警鐘

クリストファー・ノーラン (映画監督)

クリストファー・ノーラン/1970年ロンドン生まれ。2000年、監督・脚本を手がけた『メメント』で一躍注目され、ロサンゼルス映画批評家協会賞などを受賞。05年『バットマン ビギンズ』からシリーズの監督に抜擢されると、08年『ダークナイト』、12年『ダークナイト ライジング』とヒットをはなち評価を不動のものとした。

 バットマン映画の枠を超えた暗く深い傑作『ダークナイト』、夢の中で夢の中、そのまた夢へ入り込んでいく『インセプション』。1作ごとに世界を驚かせるクリストファー・ノーラン監督が新作『インターステラー』で挑んだのは宇宙。タイトルは「惑星間航行」という意味で、主人公の宇宙飛行士は、地球の環境異変で滅びつつある人類の移民先を求め、ワームホール(時空の抜け穴)を通って数百光年彼方を目指す。そこに待っていたのは土星のような輪を持つブラックホールだった。

「これが最新の宇宙理論で描かれたブラックホールの姿だ」

 ノーランは言う。「この映画を企画・製作したキップ・ソーンの本職は宇宙物理学者だからね」

 いっぽうで、この映画、どこか懐かしい。ロケット打ち上げは60年代のアポロと同じ3段式だし、宇宙のシーンも1968年製作の『2001年宇宙の旅』に似ている。

「60年代と同じようにフィルムで撮影したからだよ。今の映画はみんなビデオで撮影してCGで加工するけど、それってテレビ・ゲームにしか見えないだろ? フィルム独特のざらつきと、暗い部分が完全に真っ黒に潰れる感じが僕にとってのリアルなんだ」

 CG嫌いのノーランはこれまで本物の病院を爆破し、本物の機関車を暴走させた。今回も極寒の惑星シーンはアイスランドの氷河で撮影された。

「本当に極限状態のロケだったから、演技がリアルに撮れて満足さ(笑)」

©2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 そうしたリアルさは、主人公の宇宙飛行士を『フィールド・オブ・ドリームス』のようなトウモロコシ農家の父親にした点にも表れている。

「彼はカウボーイ、つまりアメリカの開拓者精神の象徴だ。この映画の懐かしさは、アメリカが宇宙を開拓していた60年代への憧れでもある。でも、アメリカは宇宙開発を今ではほとんどやめてしまった。たしかに最近の科学技術は進歩しているけど、スマホとかネットとか、内側に向かっていく方面ばかりだ。かつて科学は宇宙を見上げていたのに、今はみんな下を向いてスマホをいじってる。『インセプション』がスマホ世代の人気を集めたのは、心の内側に向かっていく話だからだと思う。それでは未来はない、という映画なのにね(笑)。だから『インターステラー』では外に、宇宙に向かうことにした」

 この映画にはスマホが登場しない。

「好きじゃないんだ(笑)。だって、ネットのせいでみんな本を読まなくなったじゃないか。書物は知識の歴史的な大系だ。ネットではその文脈が失われる。この映画で本を、世代を繋ぐ重要な道具にしたのは、その危機感からだよ」

『インターステラー』

11月22日より全国公開
監督:クリストファー・ノーラン
出演:マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステイン ほか
http://wwws.warnerbros.co.jp/interstellar/

取材・文町山 智浩

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2014年11月27日号
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