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異常気象時代の火災保険

11月21日 18時20分

加藤陽平記者

「異常気象」ということばがなじんでしまった感のある昨今。火災や水害による住宅の被害を補償する火災保険にも影響が出始めました。多くの損害保険会社は来年秋にも10年を超える期間の火災保険の契約を受け付けなくなる見込みです
現在は住宅を購入した人で30年を超える火災保険に加入している方も少なくないと思いますが、こうした契約がなくなってしまうのです。その理由や背景について、経済部の加藤陽平記者が解説します。

業績は好調でも・・・

11月19日、大手損害保険3グループが、中間決算の発表を行いました。「東京海上ホールディングス」、「MS&ADホールディングス」、「損保ジャパン日本興亜ホールディングス」の各社とも売り上げに当たる保険料収入は増加。好調な決算でした。

これは主力商品の自動車保険の保険料を値上げした効果が出たことが主な理由です。ただ、発表の席上、ある会社の役員から「予断を許さない」という発言が出た商品分野がありました。

それが、火災保険です。火災保険の収益はこの中間決算こそ改善したものの、自然災害の増加で、今後も改善が続くかどうかは楽観できないというのです。

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“予断を許さない”背景は

「予断を許さない」と話すのは、ことし2月に発生した記録的な大雪の被害が念頭にあるからです。

当初、損保各社は大雪被害に対する保険金の支払いは限定的だと見込んでいました。しかし、実際は、火災保険と自動車保険などを合わせた支払い額の見込みは業界全体で2500億円余り(日本損害保険協会まとめ)にも上り、地震を除いた自然災害の中で、過去4番目の規模になりました。

ふだん、まとまった降雪のない地域に記録的な大雪が降ったため、住宅の一部や車庫が壊れるといった被害が相次いだためです。また、被害が関東を中心に広い地域にわたったことも損保各社にとって想定外でした。

損保関係者は「常に備えはしているつもりだったが、自然災害の被害の規模を予測するのは難しいことだと改めて実感した」と話します。

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10年超の火災保険“引き受けられない”

多発する自然災害を受けて、大手損保各社は火災保険の10年を超える契約について新たな引き受けを行わない方針を決め、今回の中間決算でも改めて表明しました。

火災保険は現在、最長36年の契約が可能ですが、ここ数年、大雨や竜巻など自然災害が多発したことで、長期的なリスクが見通せなくなったとしています。

来年秋にも、実際に見直しが行われる見込みです。すでに契約済みの保険には影響はありませんが、契約の更新や新たな契約を結ぶ場合は最長でも10年に限られることになります。

一般には長期で契約するほうが保険料は割安になるため利用者にとっては事実上の値上げとも受け止められます。

カギを握る「機構」の判断

今回、損保各社が10年を超える火災保険の引き受けを行わないと決めた背景には、ある団体の判断がありました。

「損害保険料率算出機構」です。各社の保険料の基準となる「参考純率」と呼ばれる数値を算出する団体です。

ことし7月、火災保険の新たな「参考純率」を示した際、「保険期間が10年までの契約に適用できる」と条件を加えたのです。

つまり、10年を超える期間の火災保険については保険料の基準は示せないと表明。『そうした火災保険を販売する場合は、各社の責任で販売してください』というものです。

理事長に聞く「異常気象時代の保険」

なぜ、方針転換に至ったのか、「損害保険料率算出機構」の浦川道太郎理事長に話を聞きました。

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浦川理事長は「近年、台風による被害、それに雪やひょうなどの発生が増加していて、予測するのは困難です。自然災害が増加したことで、将来の予測に不確実性が増しているため、10年以内に限って使用できるデータしか出せないと判断しました」と話しました。自然災害が増加した背景として地球温暖化の影響があげられるとも指摘しました。

一方、消費者にとって長い期間の契約ができなくなることで、『実質値上げ』だという指摘があることについて、浦川理事長は「火災保険の期間を区切ったことで、経済的に影響があるとは思います。しかし、損保会社の負担が増して、万が一、保険金が支払われないというような事態を起こさないことが重要です。損害保険は過去の膨大なデータの積み重ねから保険料率を算出しますが、自然災害については、もはや『大数の法則』では計算できない時代になったのです」と述べました。

今後も火災保険の契約期間が短くなる可能性がないか尋ねたところ、浦川理事長は「今のところ10年という期間であれば予測は有効だ」と前置きしたうえで、今後の自然災害の発生状況やデータの分析結果しだいでは、「参考純率」を示す期間がさらに短くなる可能性があることを示唆しました。

いざという時の安心とは

「大数の法則」

保険の業界ではよく聞く確率論の基本法則です。さいころを振る回数を増やせば増やすほど、それぞれの目が出る確率は、計算上の確率である6分の1に近づく、といった意味です。

しかし、自然災害については、過去の経験則をどれだけ積み重ねても、将来の災害の確率を適切に予測することが難しい時代になった…。

率直に、驚きを覚えました。

保険と言うのは、いざというときの安心のために加入するものです。もちろん、浦川理事長の話のとおり、いくら保険料が安くても、いざというときに保険金が膨れあがり、保険会社が支払えなくなってしまっては、役割は到底果たせません。

ことしも台風が相次いで発生し、広島の土砂災害などでは多くの命が失われました。

異常気象、MEGADISASTER、といったことばがあふれる時代。いざというときへの備え方にも変化をもたらしていることを気付かされます。

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