昨年の第18回釜山国際映画祭で上映後のティーチインに飛び入り参加したクエンティン・タランティーノ監督が「今年のナンバーワンの作品だ!」と興奮気味に発言して話題になったイスラエル映画『オオカミは嘘をつく』の監督コンビ、アハロン・ケシャレスとナヴォット・パプシャドが来日し、制作秘話を明かした。
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残虐な少女暴行殺害事件における容疑者、被害者の父親、刑事の3人が破滅へ向かうさまを描いた本作。父親は容疑者を捕らえて拷問を加えるが、この善良そうな容疑者は本当に犯人なのか? 事件の被害者になることは暴力を正当化することになるのだろうか? 次第に誰が善人で誰が悪人なのかわからなくなり、観る者の「善」と「悪」の定義まで揺るがすスリラーだ。
パプシャドはこの「善悪の曖昧さ」というテーマこそ、二人にとって長年関心があったものだと明かす。「多くの映画が僕たちの映画のテイスト、そしてアプローチの仕方を形作ったわけだけど、一番いい例がセルジオ・レオーネ監督の『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』(原題:The Good, the Bad and the Ugly)。僕たちが一番興味を持ったのは、the good(善玉)でもthe bad(悪玉)でもなくて、the ugly(卑劣漢)のトゥーコ。彼の曖昧で複雑なキャラクターを僕らは興味深く思っていて、彼こそこれまでで最高の映画キャラクターだと思う」。
そして「被害者であること」「復讐(ふくしゅう)」という部分については、イスラエルのユダヤ人であるという彼らのルーツが強く反映されているという。パプシャドは「被害者であることというのは、僕たちの歴史に深く根差したものなんだ。スペインからの追放、ホロコースト、そしてアラブ諸国に囲まれた現在まで。そして『善』『悪』の境目は曖昧なものという僕たちの考え方が、映画のキャラクターや物語を複雑にしているんだと思うよ」と説明した。
本作にはユーモアも多く含まれており、それが異様な雰囲気を増長している。ケシャレスはタランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』の音楽に乗って耳をそぎ落とすシーンを例に挙げ、「ユーモアを、本当は笑うべきでないシーンに入れることで『これを笑っている自分はどうなんだ』と考えさせる。そこに参加した自分を恥ずかしく思うようなね。それと同じようなトーンを狙った。映画のキャラクターより、それを笑った自分の方がサディスティックなんじゃないかと後から落ち着かなくなる感じを出したかった」と明かしている。(編集部・市川遥)
映画『オオカミは嘘をつく』は11月22日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開