LINEスタンプもつぶやきも、ぜ~んぶナンシー関が思いついていたことだったのか
会場に並ぶ、ナンシー関が彫り尽くした800個もの生ハンコ。ハンコに添えられる一言コメントにニヤけながら、「そうか、LINEスタンプもつぶやきも、ぜ~んぶナンシー関が思いついていたことだったのか」と改めて驚愕した。秋元康の顔面を彫ったハンコに「マルチに小商い」、蓮舫を彫ったハンコに「社会派バカ」とコメントを添える……これらの言葉を超える端的な批評は、没後12年経っても出てこない。この800個の中には、ナンシー関の言葉が途絶えて以降、その「看守の不在」を「放牧の許しを得た」と誤解した芸能人・文化人の姿がちらほら見える。
11月25日までパルコミュージアムで開かれている『顔面遊園地 ナンシー関 消しゴムの鬼』展は、ナンシー関が残した書籍やハンコの他に、現在を予期するかのような厳選コラム(例:「10年後、ヤワラちゃんは選挙に出ていると思う」)を垂れ幕に掲げた『ナンシーテレビ&ナンシー事件簿』、雑誌『ビックリハウス』に連載されていた小説をピエール瀧が読み上げる映像作品『通天閣はもう唄わない』など盛りだくさんの内容。名前を伏せてハンコだけが掲げられ、そのハンコを開けると名前が記されている『私は誰でしょう?』のコーナーでは、松田聖子の元旦那や沢田亜矢子の元旦那といった懐かしすぎる顔にも出会うことができる。
『顔面遊園地 ナンシー関 消しゴムの鬼 見えるものしか見ない。そして見破る。ましてや彫る。』会場風景
決して毒舌ではない。テレビの中から毒素を抽出し続けた人
今月12日、朝日新聞の告知記事に書かれていた放送作家・町山広美氏の「今ならナンシーさんの言葉を借りて、乗っかる人が多いだろう。力を持つことに興味がない人だったから、『じゃあ私はいいわ』と筆を置いていたかも」というコメントに大きく頷いた。ナンシー関が亡くなったのは2002年。それ以降のテレビは、芸能人と視聴者がなにかと近くなりすぎるメディアとなった。等身大で親しみやすい話術を追い求め、ワイプや食レポといった、視聴者にすぐさま状況を理解してもらう配慮がテクニックとして褒め称えられるようになった。報道番組で散見されるようになったTwitterの書き込みが画面下に流れる作りなど、テレビからのお近づきの最たる証と言えるかもしれない。
ナンシー関はとにかくテレビの前に構え続ける人だった。テレビ業界内部でしか知らない裏事情や、予測検索ワード「整形」「離婚」的な推察からは、一言も原稿を書かなかった。昨今のテレビには、芸能人が芸能人を突つく毒舌キャラが席巻しているが、それらの毒舌を、「ナンシー関的な目線が、内部で建設的に行なわれるようになった」と解釈するのは間違いだ。強いて言うならば、「内部で済まされるようになった」というほうが正しい。
ナンシー関は決して毒舌ではないが、テレビの中から毒素を抽出し続けた人ではある。毒舌芸能人の筆頭・有吉弘行は、いつの頃からか、アイドルや芸人仲間を毒づいた直後に、必ず自分から笑うようになった。これはいかにも今っぽい。あの笑いには「この毒舌で笑ってください」という視聴者への合図と、「あくまでも笑い事ですからね」という相手への配慮が合わさっている。こうしてテレビの中でひとまず批評が完結することで、その外野で飛び交う罵詈雑言が放任され、外野でそれなりの批評が芽生えていたとしてもそれらと同化されてしまう。この構図って、ナンシー関の没後に生まれたものだろう。
『顔面遊園地 ナンシー関 消しゴムの鬼 見えるものしか見ない。そして見破る。ましてや彫る。』会場風景
もはや「テレビ評論」に新潮流はあり得ないのか
映画にしても文学にしても美術にしても、既にあるものを咀嚼した上で新たな姿や形を投じてくる存在が、いつしか新潮流として1つの群がりを作っていく。しかし、ナンシー関が築き上げた「テレビ評論」に、その流れは許されていない。没後、何人もが「所詮、ナンシー関の真似事じゃん」と断じられてきた。ナンシー関をいくら咀嚼してもそれが後継者となり新潮流となることはないらしい。それくらいナンシー関が書き続けた原稿は、テレビの中から想起されるものをすっぽり包み込んでいた。こういう解釈もできるのでは、という余白を残さなかった、ということなのか。
自分の本棚にはいくらでもナンシー関の本が並んでいるけれど、今春から他媒体で芸能人にまつわる連載を始めて以降は、意識的にナンシー関の本を開かないようにしている。どうせナンシー関がすっぽり包んだ中の再生産をするならば、わざわざ率先して影響を受けに行くのだけは止めておこうと、小さな自負を働かせてしまうのだ。
ダチョウ倶楽部の中で「ジモンだけはちょっとズレている」と書いたのは20年前
もうナンシー関の言葉が新たに投じられることはないけれど、まだまだテレビの中の違和感に答え続けてくれる。例えば、グルメ本をヒットさせたり、牛を1頭丸ごと買い付けるなど、肉好き芸人として予想だにしなかったブレイクを果たしたダチョウ倶楽部の寺門ジモンについて、ナンシー関は「『ダチョウ倶楽部の人格』とリーダー肥後、上島の人格はほぼ完全に合致しているのだが、ジモンだけはちょっとズレている(中略)ダチョウとの両立は大丈夫か」と書いた。1996年、なんと今から20年近く前のことである。
朝、ワイドショーをザッピングする。テリー伊藤がお得意の極論に酔いしれ、小倉智昭が趣味の音楽を上機嫌に語っている。ナンシー関の不在を実感するのはそんな時だ。例えが正しいか分からないけれど、クリスチャンが日々の辛苦と向き合う言葉を聖書の中から探し出すように、僕たちはまだまだテレビの中に漂う違和感をナンシー関の本から探し出すし、ナンシー関は必ずその違和感に明答してくれる。
『顔面遊園地 ナンシー関 消しゴムの鬼 見えるものしか見ない。そして見破る。ましてや彫る。』
2014年11月14日(金)~11月25日(火)
会場:東京都 渋谷 パルコミュージアム
時間:10:00~21:00(最終日は18:00まで)
料金:一般500円 学生400円(共におまけ付)
※小学生以下無料
(メイン画像:©Nancy Seki)
ナンシー関(なんしーせき)
消しゴム版画家、コラムニスト。1962年7月7日、青森県青森市の棟方志功記念館そばに生まれる。高校卒業後上京。法政大学在学中に消しゴムでハンコを彫りはじめ、「丁稚シリーズ十連作」がえのきどいちろう氏の目に触れ、84年消しゴム版画家としてデビューする。当時「ホットドッグ・プレス」編集者だったいとうせいこう氏に「ナンシー」と名付けられ、読者投稿ページでコラム連載『ナンシー関の漢字一發!』をスタート。執筆でもおおいに才能を発揮する。彫った消しゴム版画の数は5,000点強にものぼる。2002年6月12日逝去。享年39歳。
武田砂鉄(たけだ さてつ)
1982年生。ライター/編集。2014年9月、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」で「コンプレックス文化論」、「cakes」で芸能人評「ワダアキ考 ~テレビの中のわだかまり~」、「日経ビジネス」で「ほんとはテレビ見てるくせに」を連載。雑誌「beatleg」「TRASH-UP!!」でも連載を持ち、「STRANGE DAYS」など音楽雑誌にも寄稿。「Yahoo!個人」「ハフィントン・ポスト」では時事コラムを執筆中。インタヴュー、書籍構成なども手がける。
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