衆議院が解散された。総選挙の公示は12月2日、投開票は14日に決まった。

 私たちはこれまで社説で、安倍首相による今回の解散に疑問を投げかけてきた。

 首相はきのうの記者会見で、こう語った。「アベノミクス解散だ。消費税率引き上げを18カ月延期し、税制に重大な変更を行った以上、選挙をしなければならないと考えている」

 また、「代表なくして課税なし」という米独立戦争で語られた民主主義と税との関係も引き、「大義」を強調していた。

 だが、透けて見えるのは「いまなら負けない」という打算。長期政権を狙う首相自身のための選挙との色合いが濃い。

 とはいえ、解散となったからには、有権者がなすべきことはひとつだ。

 主権者として一票を行使する。その判断のもととなる問いかけを、政党指導者や候補者にぶつけていく。

 菅官房長官は「何を問うか問わないかは、政権が決める」と言い放った。それは審判を受ける側の身勝手な理屈、あるいは逃げに過ぎない。

 決めるのは、有権者だ。

■憲法軽んじる姿勢

 安倍首相の消費増税の延期と2年間の経済政策への評価は大切な論点である。そこはこれからじっくりと論じていきたいが、まず問われるべきなのは、首相の政治姿勢だ。

 昨夏の参院選をへて、衆院で3分の2、参院で半数を超える与党勢力を得た安倍政権には、数の力頼みの姿勢が著しい。

 その典型は、自らの権力に対する「縛り」となっている憲法への態度である。

 首相に返り咲いた直後の13年の通常国会で、安倍氏は「憲法を国民の手に取り戻す」と、改憲手続きを定めた96条の改正を唱えた。憲法改正案の発議に必要な議員の賛成を、3分の2以上から過半数に改めるという内容だ。

 だが、憲法で権力を縛る立憲主義に反するとの理解が広まると、首相は96条改正にはほとんど触れなくなった。かわりに進めたのが、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認である。

 首相は今年7月、私的懇談会の報告からわずか1カ月半後、与党協議をへただけで行使容認の閣議決定に踏み切った。

 来月に迫った特定秘密保護法の施行も、憲法に基づく報道の自由や知る権利を侵しかねないとの懸念を押し切っての、強行採決の結果である。

 首相が長期政権を確保したうえで見すえているのが、憲法の明文改正だ。自民党は、再来年夏の参院選の前後に改正案を発議できるよう、準備を始めようとしている。

■前のめりの原発回帰

 もうひとつの大きな問いは、安倍政権の「原発回帰」への動きである。

 原子力規制委員会の審査と鹿児島県などの同意を得た九州電力の川内原発は、近く再稼働する見通しだ。

 民主党政権時代に起きた福島第一原発の事故を受け、安倍氏も前回の衆院選では「できる限り原発に依存しない社会をつくっていこうと決めている」と語っていた。

 だが、政権に就くと安倍氏は「規制委が基準に適合すると認めた原発は再稼働を進める」との方針のもと、過酷事故への備えが不十分なまま、「まずは再稼働」に前のめりである。一方で、「脱原発依存」への道筋は描けていない。

 安倍政権の大きな課題は来年から動き始める。

 集団的自衛権の行使に向けた関連法案は、来年の通常国会に提出する予定だ。川内原発も、原子炉が動き出すのは年明けになりそうだ。

 来年はまた、戦後70年の節目の年でもある。歴史認識や領土をめぐって冷え込んだ中国や韓国との関係では、正常化に向けた道のりはなお遠い。

 安倍政権に対し欧米も抱きはじめた「歴史修正主義」との疑いをぬぐい去り、近隣諸国と和解の握手を交わす8月を迎えることができるかどうか。

■「これから」の選択

 朝日新聞社の緊急調査に対し、6割を超える有権者が首相の掲げた解散理由には「納得しない」と答えている。

 だが、ここまで挙げてきたように来月14日の投票は、2年間の安倍政権の評価とともに、日本の「これから」を選ぶ重要な機会になる。そう考えれば、一票の重みもまた格別である。

 こうした問いはまた、野党にも向けられる。

 あまりの大敗に茫然自失(ぼうぜんじしつ)で時を浪費した民主党。第三極として躍進しながら、分裂や解党に追い込まれた旧日本維新の会やみんなの党。いずれもこの2年、政権を奪うために政策を磨いてきたとは言い難い。

 それでも選択肢がなければ困るのは有権者だ。政党としての責任は、果たしてもらわなければならない。