さまざまな風俗産業のなかに、「援デリ」とよばれるものがある。出会い系サイトでアポをとって、売春をおこなう未成年の少女たち。彼女たち、そして彼女たちのまわりにいる大人たちを取り巻く現状とはどのようなものだろうか。『援デリの少女たち』の著者である鈴木大介氏にお話をうかがった。(聞き手、構成/出口優夏)
援デリとはなにか
―― 「援デリ」とはなんでしょうか?
「援デリ」という言葉を聞くと、デリバリーヘルスを思い起こすひとが多いかもしれませんが、援デリとデリバリーヘルスとはまったく異なるものです。援デリでは、「打ち子」とよばれるキャスティングスタッフがお客さんを出会い系サイトで探して、女の子たちに売春を斡旋していく。それで、女の子たちが売春でえた儲けの何パーセントかを業者側がとるというしくみですね。
しかし、業者がついているとはいっても、業者が個人で売春をしている子たちの手助けをして、その代わりにバックをもらっているという感じがつよい。だから僕自身は、援デリを個人の売春の延長線上にあるものだと考えています。ひとによっては、未成年の女の子がおこなっているものを「援デリ」、成人女性がおこなっているものを「裏デリ」と区別してよぶこともありますね。
―― なぜ業者の介入が必要になってくるのでしょう?
女の子にしてみると、うしろに業者がいることで、安心して売春ができるというメリットがあります。女性にとって、初めて会う男の前でいきなり裸になるのは、非常に強い恐怖心をともなうことも多いし、なかには実際に女性を傷つけて楽しむような危険な客もいる。
こうした極端に危険な男が出会い系サイトで使っているアカウントは、業者間の「NG客」リストとして共有されている場合もありますし、危ない目に遭わされたときにも助けてもらえるという安心が女性側にある。実際に業者がそのような機能をしていない場合もあるけども、女性はそこに期待しているわけです。
また、出会い系サイト等で客を探す作業も、1日何人もというと、とても個人では続けられない。業者のキャスティングスタッフは1日100本以上のメールを処理しますが、けっして楽な作業にはみえません。「客をつけてもらえる」というのも、女性側にとって意外に大きなメリットのようです。
さまざまな業態の差はありますが、基本的に風俗産業はすべて、女の子と業者が共依存関係にあるといえます。仕事がないと女の子は生きていけないし、女の子がいないと業者も商売が成り立たないんですよね。
たとえば、いま寮をもっている援デリ業者が増えてきています。業者がマンションのワンフロアを用意して、一日の賃料を1~3万円くらいに設定する。その賃料を女の子たちがみんなで分割して払っていくというしくみになっています。援デリをしている女の子のなかには、さまざまな事情で賃貸住宅を借りられない子が非常に多く、彼女らは通常ネットカフェや友達の家、カラオケや、客といったホテルにそのまま寝泊りするなどで居所を確保しています。そこで寮という安定した寝床を確保できるというのはとてもおおきい。
また、援デリ業者はつねに「女の子が長くはたらかずに飛んでしまう」という悩みを抱えているのですが、寮があればキャストをつねに確保し、さらに女の子が新しいキャストをみつけてきてくれる。寮となる部屋を貸しているオーナーにとっては、通常では考えられないほどの高額の家賃収入が望めます。昨今報道されている脱法ハウス問題にも繋がる事情があるわけです。
問題なのは、そういったかたちで、どんどんと業者と女の子の依存関係が深まっていくと、彼女らがそこでなら生きていけると誤認識してしまうこと。ある程度独立できるお金を稼いだとしても、そこで足を洗って一般社会デビューにチャレンジする機会をいっしてしまうことでしょうか。
―― 本のなかでは、援デリの摘発が厳しくなっているという話もありました。現状はどのようになっていますか?
摘発にかんしては、警察の生活安全課のかぎられたひとと時間のなかで、ピンポイントで摘発強化する時期はあるのですが、それ以外の時期は野放しになっているように感じてしまいます。出会い系サイトの規制にかんしていえば、ほとんど意味をなしていない。
出会い系サイトへの未成年の登録はできませんが、業者は成人アカウントを取得しますし、売春相手を募集する書き込みについても実質的に野放し状態。業者側からしても、たとえ出会い系サイト側から注意をされたとしても、アカウントを変えてしまえばぜんぜん問題ないというのが実状です。
援デリ状態全体をみると、業者が飽和状態だなというのは感じますね。長くつづけることを考えなければ、援デリ業者をはじめることって、とても簡単なんですよ。男の人が「うわ! 金がない!」というときに、まわりの女の子を集めて、ぱぱっとお客さんをとる。稼げるだけ稼いで、一日で閉じてしまうということもできますからね。