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イベント レポート/だしサミット

基調講演「日本のだし」+デモンストレーション(1)日本料理

昆布のグルタミン酸と鰹節のイノシン酸が旨味の相乗効果を起こすのが「だし」の原理。

料亭「菊乃井」3代目主人、関西食文化研究会コアメンバー
村田吉弘(むらた よしひろ)さん

今、日本料理が非常に世界で注目されている。日本にいるとわからないが、日本料理は世界でも特殊な料理。日本料理とその他の国の料理というくらい、アプローチの仕方も考え方も違う。 食べると脳の中にある快感中枢が刺激されて、幸せになる成分が3つある。それが油脂分、甘味、旨味成分。世界の料理は油脂分とプロテインを中心に構成されているが、日本料理だけは旨味を中心に料理を構成している。なぜ旨味を中心に料理を構成してきたかというと、昔はあまり獣類の肉は食べず、豆腐や野菜など淡白なものしかない。どうしようかと考えた末に、昆布と鰹節で「だし」をとることを考え出した。

だしの優れているところは、フランス料理や中国料理と違ってカロリーがないこと。昆布から出てくるグルタミン酸と鰹節から出てくるイノシン酸は全然違うタイプの旨味だが、同時に入れることによって相乗効果が起こり、含有量で6倍~8倍の旨味が出る。非常に濃厚な旨味。昆布の他にグルタミン酸があるのはトマト。イノシン酸は鰹節の他に、鶏肉や豚肉の含有量が高い。この他にはキノコから出てくるグアニル酸。シイタケから出るグアニル酸と昆布のグルタミン酸で、精進料理のだしはできるわけだが、非常に濃厚な旨味が出る。

油脂分を減らして、旨味の成分を増やせばカロリーは減る。しかし満足度は同じレベルである。今、世界の若いシェフはカロリーを減らすことを最大の課題としている。カロリーを減らし、摂取食品数を増やし、全体としての満足度を上げて、よりヘルシーな料理をどうやったら作れるか。つまり、オイルを減らし、クリームを減らし、油脂分を減らした分、旨味で補っていくという考え方。

若いシェフたちがやっていることは、食感や苦みの要素を入れて、香りが良いこと。世界中でユズが大人気。ユズには香りがあり、苦みがあり、非常に使いやすい。そこに旨味を入れていく。それも今までのように、だしではなくて、シート状やステック状にしている。

まずは皆さんに昆布だしを飲んでもらいます。その横に鰹節を置いています。最初、一口飲んで、昆布だしの味をみてください。グルタミン酸の水溶している味はわかりにくいです。その後、鰹節を口の中に入れて、また昆布だしを飲んでください。そうすると口の中に旨味がワッーと“うまマイズ”します。数種類の旨味が相乗効果をあげることをヨーロッパ人は“うまマイズ”と言うんです。これがだしの原理なんです。

昆布を水の中に入れて、ゆっくりと温度を上げていく。昆布は80度以上ではグルタミン酸の抽出ができていないことがわかっているので、60度まで上げて1時間くらいキープ。それによってグルタミン酸の抽出量は3割増える。鰹節は85度。あまり温度を上げると、嫌な臭みが出る。 グルタミン酸とイノシン酸とが相乗効果を起こして、だしができる。ということは、他のイノシン酸でも、だしはとれるということ。獣類の肉の中でイノシン酸が多いのは鶏肉や豚肉。これは豚肉のモモを細かく切って塩をしたもの。塩をするとタンパク質が変成してイノシン酸の含有量が3~5倍になる。魚のアジも塩焼きして食べるより、干物にした方が味が濃いのと同じ。

次は、豚肉をさっと湯がいた豚だしです。豚の潮汁ですね。回りにあるタンパク質を流すことによって臭みが出ないようになる。油脂分があったりゼラチン質があるといけません。西洋のように長く炊かなくてもいい。すぐに昆布を入れて、グルタミン酸とイノシン酸の抽出ができます。この豚肉だしで高野豆腐を炊きます。

鰹だしと昆布だしは、日本人はおいしいと思うが、欧米人にしてみると鰹節の中の香りが気になる。野菜が炊いてあっても鰹だしと昆布だしのにおいがする。それが重なってくると非常に重くなる。料理によって、だしは変えるべき。これから世界に出ていく時、日本料理は変わっていくべきだと思う。

世界の料理は大きく変わろうとしている。それに伴い、科学的な裏付けによって、だしというものの考え方について、和食では変化が起きている。いろんなものからだしはとれるし、いろんな考え方によって料理の幅は広がる。お互いのジャンルの壁が低くなっている。そういうものが日本料理と思っていただけたら、幸いです。

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