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2014-11-20

[][] フィリップ・ロスプロット・アゲインスト・アメリカ フィリップ・ロス『プロット・アゲインスト・アメリカ』を含むブックマーク

 1940年アメリカ大統領選挙でもしも反ユダヤ主義者のリンドバーグ大統領になっていたら…、という歴史改変小説なのですが、これが実に良く出来ている。

 フィリップ・ロスは『さようならコロンバス』、『素晴らしいアメリカ野球』、『父の遺産』あたりを読んでいて、『素晴らしいアメリカ野球』以外はそんなに面白かった記憶がないんですけど、さすがに小説の作り方が上手いですね。

 訳も柴田元幸なので、非常にスムーズに読めると思います。


 まず何と言ってもこの小説の魅力は歴史改変のアイディアとそのアイディア歴史的事実に則して上手に展開されていくこと。

 冒頭で述べたように、この小説歴史改変のポイントは「1940年大統領選挙リンドバーグ大統領になる」というものです。

 チャールズリンドバーグは、ご存知、1927年大西洋単独無着陸飛行を成功させた人物で、その偉業は映画『翼よ!あれが巴里の灯だ』にも描かれました。

 また、人によってはその後に起きたリンドバーグ誘拐殺人事件をご存知かもしれません(クリント・イーストウッドの『J・エドガー』でもとり上げられていました)。

 

 しかし、リンドバーグナチス・ドイツから鷲功労十字章をもらい、反ユダヤ主義の考えを持ち、アメリカ第2次世界大戦参戦に反対したという事実については知らない人が多いかもしれません。

 1941年にはアメリカの参戦に反対する集会で、イギリスユダヤ人ローズヴェルト政権アメリカ戦争に引きこもうとしているという演説をしており(その内容はこの本の最後にある「資料」で読める)、1940年大統領選においても実際に一部の共和党政治家リンドバーグ大統領候補に担ごうとする動きがあったそうです。


 この小説において、リンドバーグ飛行機で全米を回って大統領選挙当選し、アイスランドヒトラーと会談し、ドイツアメリカ平和関係確立すると、ホノルル近衛文麿松岡洋右と会談し、日本アジアへの侵略を認める代わりにフィリピングアムハワイといったアメリカ勢力圏安全を確定させるのです。

 このリンドバーグをささえるのが副大統領バートン・K・ウィーラーや国務長官ヘンリー・フォード。ウィーラーは最初ローズヴェルトを支持しつつ、のちにアメリカの参戦を巡ってローズヴェルトと対立し、ヒトラーとの交渉を主張した人物。ヘンリー・フォードはご存知フォード社の伝説的な経営者ですが、反ユダヤ主義者でリンドバーグと同じくナチスから鷲功労十字章を受け取っています。


 このように当時の実在の人物や歴史的状況をうまくとり入れながらそれを改変してみせたところが、まずこの小説の魅力なのですが、焦点が当てられるのは、あくまでもロス本人をモデルとしているニュージャージー州ニューアークに住むユダヤ人の一家です。

 主人公のフィリップは7歳。まだ現実社会政治の動きがわかる年齢ではないのですが、その子ども生活にも両親や親戚、そして社会風向きの変化などを通じて、反ユダヤ主義圧力というものが伝わってきます。

 そして、この圧力さらされたとき、いとこのアルヴィンはカナダにわたってドイツとの戦いに加わろうとし、兄のサンディユダヤ人を脱して「模範的アメリカ人」になろうとします。


 しかし、その圧力はやがて、ユダヤ人ユダヤ人地区から地方へと移住させようとする「ホームテッド法42条」という姿で、ユダヤ人コミュニティ解体しようとします。

 それはユダヤ人を追放するものではなく、あくまでも表向きは良きアメリカ文化に染まっていないユダヤ人を「同化」させるためのものです。

 

 このような圧力の描き方も上手いですし、さらにそれに立ち向かう家族の描き方も上手い。人々は英雄になりそこねたり、火事場の馬鹿力的なもの英雄になったりしながら、なんとかこの大波に抵抗しようとします。

 最後主人公の友人セルドンの描き方だけが個人的には好きではないのですが、家族、そして子ども世界を描いた物語としても十分に面白いものがあります。

 500ページ近い小説ですが、長さを感じさせずに、「読ませる」小説ですね。


プロット・アゲンスト・アメリカ もしもアメリカが・・・
フィリップ・ロス 柴田 元幸
4087734862

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